200冊以上の著作を残したイラストレーターの和田誠さん。装丁やイラストのお仕事も加えると枚挙にいとまがありません。しかしながら、ご自身やご家族について書いた本は決して多くありません。そんな”めったに自分を語らなかった”和田誠さんが、家族や仕事、趣味、交友関係などについて書いた貴重なエッセイ『わたくし大画報』を42年ぶりに復刊することとなりました。第2回では、その中から和田誠さんの各界の著名人との驚くべき交友録の一部を紹介します。

世界にひとつだけのマレーネ・ディートリッヒのサイン

「怪盗ルビイ」で1989年の第31回ブルーリボン賞・監督賞を受賞したときの和田誠「怪盗ルビイ」で1989年の第31回ブルーリボン賞・監督賞を受賞したときの和田誠 Photo:SANKEI

 ぼくは今、サインに狂っている。もちろんサインする方ではありませんよ。してもらう方である。もうミーハーまる出しで芸人さんやら作家の先生にサインをいただいております。ただし、ヤミクモにサインしてちょうだいと言うのではない。

 ぼくは一年半前に美術出版社から「PEOPLE」という本を出した。似顔絵集である。これには四百八十人の似顔が入っている。で、この本をですね、つまり自分の保存用の本を持ち歩いて、似顔を描いたご当人に会うたびに、その絵の上にサインを願っているのである。

 すでに九十三人の方のサインをいただいているのだけれど、四百八十人にはほど遠い。それに四百八十人部というのは、もう絶対に不可能なのである。故人もたくさん描いているからだ。外国の人も多い。外国行ってまでこの本を持ち歩き、有名人をたずねて廻る、といった度胸はありませんねえ、残念ながら。今は、たまたま会った知人であるとか、何かの機会に紹介してもらったとか、そんな時にヒョイと頼んでいるわけ。