シリーズ終了から20年近く経っても、熱心なファンから絶大な支持を集める映画『男はつらいよ』。「寅さん博士」の落語家・立川志らく師匠が4作品から名ゼリフを厳選して、粋だけど、どこかせつない寅さんの真髄を語り尽くす。本稿は、立川志らく『決定版 寅さんの金言 現代に響く名言集』(ART NEXT)の一部を抜粋・編集したものです。
第7作『男はつらいよ 奮闘篇』
寅さんの愛とは“犠牲愛”
封切日:1971年(昭和46年)4月28日
マドンナ:榊原るみ
ゲスト:田中邦衛
主なロケ地:青森県鯵ヶ沢、静岡県沼津
「月にむら雲、花に風、一寸先の己が運命。わからないところに人生の悲しさがあります。」
本作は、シリーズの中でも少々異色な作品です。寅さんが、表現は難しいけれど知的障がいがある少女を好きになってしまう。
沼津駅のラーメン屋で榊原るみ演じる花子と偶然に出会い、最初はちょっと不憫に思った。花子に気付いた自分が面倒を見てやらないといけない。そんな寅さんの親切心でした。
ところがとらやで花子と再会すると、寅さんの気持ちは恋心に変わっていきます。花子の心の清らかさに、どんどん惚れていくのですね。保護者の立場で接しているうちに、花子は俺が守ってやらなければならないと思う。花子もそれに応えてくれる。寅さんの恋心はますます盛り上がっていくのです。
これまでいろんな恋愛を経験してきたけれど、花子のような人と一緒になるのが幸せなのではないか。お互いにとってそれが一番の選択なのではないか。寅さんは気付くわけです。そこで出てくるのが、この名ゼリフです。
「一寸先の己が運命。わからないところに、人生の悲しさがあります」
お互いに両思いなのだけれど、もしも二人が結ばれても、その先のことは誰にもわからない。もしかしたらこの子は自分と一緒になることによって、ものすごく不幸になってしまう可能性があるのではないか。それがどう転ぶかわからないから人生は悲しいと、寅さんは言うのです。
そのことに気付いた寅さんは、花子と一緒にならない道を選択するわけですね。
その代わりに登場するのが、もともと花子の面倒を見ていた学校の先生(田中邦衛)です。はるばる青森から上京して、花子を迎えに来る。
この先生のもとに戻ることが花子にとって最高の幸せであり、もっと明るい人生が待っているはずだ。だから、寅さんはスッと身を引くことができたのですね。
寅さんの愛とは“犠牲愛”なのです。犠牲愛の人、寅さんにしてみたら、ストーカーなんて信じられないでしょうね。
自分が幸せになるために、相手が怖がって逃げてもものにしたい。自分の欲望のほうを優先して、相手が不幸になってもいいという考え方ではありませんか。
寅さんは真逆です。自分が不幸になってもいいから、自分が好きな人に幸せになってもらいたい。ストーカーには反省していただきたいものです。