価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

チームのアイデア力をレベルアップさせる、リーダーの言葉とはPhoto: Adobe Stock

アイデアを出しやすくする準備をする

 いきなりブレインストーミングを行うこともいいですが、個々のメンバーがアイデア出しをしやすくするためには、準備運動や適切な助走が必要です。

 その時間と機会を確保する上でも、各自がアイデアについて考えられるように「宿題」を出して、あらかじめ考えてきてもらえるとよいでしょう。

 宿題でアイデアの持ち寄りができれば、アイデアの数は自然と集まってきます。

 たとえば、5人のチームでアイデア出しをしてひとり10案ずつアイデアを持ち寄ることができれば、次の会議のときには、50案のアイデアからスタートすることができます。この「宿題」としてアイデアの持ち寄りをメンバーに依頼するときにも、工夫が必要です。

「宿題の出し方」で、
アイデアの数も質も変わる

 私の経験をお話ししましょう。

 広告代理店のクリエイティブの部署にいたとき、私はそもそもアイデアを出すことが苦手だったという話をしました。そこから、経験を重ねてアイデアを自分で出せるようになってくると、いつしかチームのリーダーになりました。

 とはいえ、自分でアイデアを出すのが精一杯の中で、後輩たちに対してどんな依頼をすればいいのかわかりません。

 クライアントからオリエンテーションを受けて、私はスタッフにこう伝えました。

じゃあ、それぞれ自由に考えて、2日後にアイデアの持ち寄りをしようか

すると、どうでしょう。

 結果は、大きく2つに分かれました。

 経験のあるスタッフたちは、「こんな視点から考えてみました」とか「このあたりが大きな課題だと考えて」など、いろいろな仮説を基にしたアイデアを次々と話してくれます。

 一方で、新人に近いような若手たちは、なかなかアイデアを披露しようとしません。こちらから促してみると「考えてはみたのですが……」と言いながら与件の整理や、事例を調べてみましたということだけで、アイデアが1案もないというメンバーがいるのです。

 もちろん、中には無邪気にたくさんのアイデアを持ってくる若手もいましたが、多くの新人はアイデアを持ってくることができませんでした。かつての自分を見ているようでした。

 私は、リーダーになって、またこのアイデアが出ないという問題に直面したのです。

 私は、「宿題の出し方」によって、このアイデアゼロ問題を変えることができるのか、試行錯誤をしてきました。いくつか、効果のある「出し方」があったのでご紹介させていただきます。

1.持ってくるアイデアの数を決める

 あるとき「じゃあ、明日までにAという商品を若者が買いたくなるようなプロモーションのアイデアをひとり10個ずつ持ってきましょう」と伝えました。

 すると、どうでしょう?

 チーム全員が10個以上のアイデアを持ってくることができました。なかなかアイデアの数を増やすことができなかった若者も含めてです。

 これは、広告代理店のような企画を考えることが仕事の会社だけでなく、普段、企画と縁遠いような仕事をしている会社やグループに対しても有効でした。このような明確で、かつまとまった数の企画を考えてきてもらうことをオーダーすると、みんな持ってくることができるようになりました。

大事なのは「いったん正解探しは置いておく」こと

 どうして、このような効果が生まれたのでしょうか。それはチームメンバーが「いったん正解探しは置いておく」ことができたからです。

 もちろん、それまでも「正しいアイデアを持ってきてください」などと、チームに伝えたことはありませんでした。

「アイデアをたくさん出したほうがいい」「みんなでたくさんアイデアを出してみて、そこからひとつ選ぼう」などというアドバイスをしていたのです。

 それでも、アイデアを出す段階で「正解」を探してしまうスタッフたちの「アイデアのブレーキ」を外すことはできていなかったのです。

 しかし、10個と明確に数を示すことで、やっと「正解を探す」ことの呪縛から解き放つことができました。

 チームリーダーにできることは、持ってくるアイデアは正解でなくていいことをチーム全体の共通理解にすることです。くだらないアイデアだって、誰かを刺激してそこからビッグアイデアに化けるかもしれない、ということを繰り返し伝えていきましょう。そして、伝えるだけで動かないときには、この「持ち寄るアイデアの数を決める」など仕組みを変えてみましょう。

2.考えてくるテーマの範囲を絞り込んだ上で
多くのアイデアを募る

 考えるべきテーマと、どこまで考えるべきかがはっきりしていないと、アイデアのレベルもまちまちになってしまいます。

 たとえば、過疎の村で定住人口を増やしていくためのアイデアを考えるとしましょう。この場合も、いきなりこのお題そのものを出すよりも、考えるテーマそのものを絞ってあげるとアイデアが出やすくなります。

 いきなり定住人口を増やすアイデアを考えるよりは、「お試しで住んでもらうためのアイデアについて考えてみよう」と言ったほうが考えやすいように思います。

 さらにできるのであれば、いくつかの例示もしましょう。

 たとえば、先述した「地域の抱える課題を年間の研究テーマとして課しつつ、総合的な学習の効果もあるような山村留学」や「都市部の企業と提携をしながら、出向のような形での人事交流の仕組み」などの例示をします。

 このように例示をすることは、どのくらいのレベルでアイデアを掘り下げて持っていけばいいのかの基準となります。

 この基準を深く設定しすぎてしまうと、またアイデアの持ち寄りが不活性化してしまうので、レベル感をどの程度にするかが重要になってきます。

 次の3つについては、チームリーダーがあらかじめ設定するか、もしくは、どれを明確にしたいのか、はっきりと示すことが大事だと思います。

 ①ターゲット(誰に提供するアイデアなのか)
 ②アプローチ(どんなアイデアなら実現性があるかなど、ゴール像にたどり着くまでの方法やアイデアのレベル感)
 ③ゴール像(このプロジェクトが成功したら、ターゲットがどうなっていくか)

 お題が出されてから漠然と「それぞれ自由に考えてみよう」というオーダーをすることは、多くの場合うまくはいきません。リーダーとして、試行錯誤してみてください。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。