近年、「頭の回転の速さの象徴」としてお笑い芸人が多くの場面で活躍をしている。そんなあらゆるジャンルで活躍をし続けるお笑い芸人たちをこれまで30年間指導し、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも話題になった伝説のお笑い講師・本多正識氏。ナインティナインや中川家、キングコング、かまいたちなど今をときめく芸人たちがその門を叩いてきた「NSC(吉本総合芸能学院)」で本多氏が教えてきた内容をビジネスパーソン向けにアレンジした『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』より、本文の一部をもとに仕事に関する本多氏の考え方をお届けする。(初出:2023年6月13日)
「仕事ができる人」と「仕事ができない人」の決定的な違い
皆さんは仕事のスピードに自信はあるでしょうか。当然ですが、仕事が早い人はどんな業界でも重宝されると思います。かく言う私はかつて仕事を止めてしまうことが多く、まわりの人に迷惑をかけてしまいました。
週に7本のレギュラー番組の構成をし、年に50本の漫才台本を書き、2ヵ月に1本の吉本新喜劇の台本を書き、加えてスケジュールの合間をぬってNSC(お笑い養成所)の授業をしていた時期がありました。
たくさんの仕事をできることが嬉しくて、断るということを一切しなかった私は、同時にいくつかのことをこなさないと物理的に時間が足らない状況に陥ってしまいました。こっちの仕事のときにあっちの仕事をかじり、合間にさらに別のことをしての繰り返しでした。その結果、満足にできた仕事はひとつもなく、どれも中途半端なものばかりで、多くの人に迷惑をかけてしまいました。
加えて、当時の自分には悪癖がありました。それは「自分のなかで完璧な状態に仕事が仕上がるまで相手に共有しない」というものです。
台本や原稿執筆をするうえで、締切を延ばしてでも自分が完全に納得するまで粘るのが常態化してしまい、相手のスケジュールを狂わせることをしてしまっていたのです。もしかすると、仕事をするなかで、当時の私と同じような感覚をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
当然ですが、この考え方は良くありません。自分の中で仕事が溜まるだけでなく、プロジェクトそのものが完全に停止してしまいます。悩みに悩んだ当時の私は一緒に仕事をするビジネスパーソンやお笑い芸人を観察して仕事をやり方を改善しました。
そこでわかったのが、仕事ができる人ほど、自分のところで仕事を止めないように心がけているということでした。仮に自分の納得のいかないクオリティだったとしても、「ここまでのもの一度共有します。時間までもう少し粘りたいので方向性だけ見ていただけると嬉しいです」と、自分の意見も言いつつ、仕事の流れを止めないように働いているのです。
ものすごく基本的なことかもしれませんが、「相手に中途半端なものを送っては失礼にあたる」と考えていた私には衝撃的なことでした。以降、私もスピードを意識して仕事をこなすようになり今のようにスムーズに働けるようになりました。
また、仕事のやり方を改善して感じたことは、途中段階でも状況を共有した方が、まわりからもフィードバックがもらえるため、結果として仕事の質も向上するということです。かつて「仕事の質」にこだわり自分だけで粘ろうとしていた自分とは真逆の成果を得ることができたことは大きな収穫でした。
多くの方がすでに実践できているかもしれませんが、仕事へのこだわりや情熱のある人ほど、自分で仕事を抱えがちなように感じます。ぜひ意識してみてください。