長期停滞に陥った基本的原因は
情報技術への適応遅れたこと

 日本経済は1980年代は世界経済をリードしていたが、90年代後半以降、長期停滞に陥ってしまった。バブル崩壊後の不良債権処理の先送りなど原因はいくつかあるが、この頃に登場した新しい情報技術にうまく適応できなかったことが大きい。

 この時必要とされたのは、新しい情報技術に対応して社会構造を大きく転換することだった。大型コンピューターを中心とするそれまでの中央集権的情報技術体系から、パソコンとインターネットを中心にする分散・分権型の情報システムへの転換に対応して、日本社会が適応することが必要だった。それができなかったことが、その後の日本の衰退をもたらすことになった基本的な原因だ。

 ところが、今回の自民党総裁選での候補者の政策や候補者討論を見ても、あまり具体的な政策の提案はない。

 石破茂元幹事長は、インターネット技術を活用して地域間の情報格差をなくし、地方創成、東京一極集中の是正を図るとしている。また、河野太郎デジタル相、小泉進次郎元環境相がライドシェアリングの全面解禁を提唱している。どちらも重要な課題だが、デジタル化はこれらだけに留まるものではない。

マイナ保険証、効果は少ない、
いまからでも見直せ

 実際に行われようとしているデジタル化政策としては、まず、従来の健康保険証からマイナンバーカードを自身の健康保険証にするマイナ保険証への切り替えがある。しかし、この切り替えによって、医療サービスのデジタル化が格段に促進されるわけではない。

 転職や結婚などの際の保険証の再発行が不要になるなど資格確認での効率化や、医師や薬剤師が診療情報や薬剤処方情報の共有がスムーズにできることがうたわれているが、現行のやり方でも行われており、マイナ証明書で画期的な効果が得られるという話ではない。

 患者の立場からすると、いまは送られてくる保険証をただ利用すればよいだけだが、マイナ保険証は、診療所などでの受付時の認証や定期的に役所に出向いて更新の手続きをとる必要があるなど、使いにくかったり面倒になったりするといった声がある。要介護者など移動が困難な人にとっては、かなりの負担だ。

 政府は今年12月2日から健康保険証は新規発行停止し、いずれ原則廃止する方針を打ち出しているが、総裁選候補者の一人である林芳正官房長官は、マイナ保険証を見直すべきだとしている。石破氏も「時期を見直す必要があるだろう」とした。

 河野デンタル担当相は、「一度決めた。これで行くではなく、不断に必要性を問うべきだ」としている。これはサイバーセキュリティについての発言だが、同じことがマイナ保険証についても言えるはずだ。「もう時間切れだから変更できない」などと言わず、いまからでも、従来の保険証の存続を認める(マイナ保険証は希望者だけが使う)方向に転換すべきだ。

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