自民党総裁選挙の候補者による政策論議で、争点に浮上しているのが「解雇規制の緩和」だ。特集『自民総裁選2024 政策を問う!』の本稿では、解雇規制の緩和で日本の経済は活性化するのか、労働者にはどんな影響があるのかを明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
整理解雇の条件見直しより有効なのは
解雇の金銭解決のルール化
小泉進次郎元環境相は自民党総裁選挙で、「聖域なき規制改革」を打ち出している。父の小泉純一郎元首相が掲げた「聖域なき構造改革」をほうふつとさせるスローガンだ。
進次郎氏が、規制改革の目玉として打ち出したのが解雇規制の見直しによる労働市場の流動化である。
解雇規制の見直しにはさまざまな論点がある。記者が出馬表明会見で小泉氏に具体策を聞くと、大企業が整理解雇を行う際の4条件の1つ、「解雇を回避するための努力義務を履行すること」を見直すと答えた。具体的には、前述の解雇回避努力として現状、労働者の配置転換や希望退職者の募集などを行うことが義務付けられているが、解雇される労働者にリスキリングの機会や再就職の支援を提供することも解雇回避努力義務を履行したと見なすという。
小泉氏は解雇規制の見直しで、大企業に偏在する人材をスタートアップや中小企業に転職させることで経済を活性化させようとしている。この改革を実現する法案を1年以内に国会に提出する。
ただ、専門家は小泉氏に注文を付ける。昭和女子大学の八代尚宏特命教授は、「企業による整理解雇の規制は改革すべきだが、すでに解雇できる条件の相場観が形成されており、人材流動化の障害とはなっていない。むしろ、(規制が曖昧で)透明性に欠ける、個人の解雇紛争の金銭解決のルール化にも取り組んでほしい」と期待する。
解雇の金銭解決は、裁判所が「解雇無効である」と判断した場合、労働者が同意すれば金銭で労働契約を解消できる仕組みだ。この仕組みにより企業は、労働紛争の解決コストを見通せるようになる上、社員を終身雇用しなければならないプレッシャーが軽減されるため中途採用をやりやすくなる。
自民党総裁選の候補者で、解雇の金銭解決のルール化を打ち出しているのが河野太郎デジタル相だ。
河野氏は、労働者が金銭の補償を受けられず泣き寝入りするケースを減らすとともに、リスキリングなどで労働者がより高い給料を得られる転職を増やそうとしている。そのために、労働者の再就職支援を拡充する(詳細は本特集『河野太郎・自民党総裁候補を直撃!解雇規制の緩和からデジタル戦略、経済外交まで【インタビュー完全版】』参照)。
次ページでは、解雇の金銭解決のルール化のメリットとデメリットを整理するとともに、労働市場を流動化するための課題を明らかにする。