ヤバいDX 2023#11Photo:PIXTA

約1700市町村のシステムを、2025年にクラウド対応に切り替える、壮大な計画が現在進められている。だが本来の目的だった「システム運用のコストを3割削減」が実現できそうにない自治体が相次ぐ。また、「計画を延期しないと、自治体行政が25年に全国でパニックに陥る可能性もある」との声も。さらに、これとは別に進んでいる内閣官房が音頭を取るデジタル田園都市国家構想にも、ばらまきの批判が集まる。特集『企業・銀行・官公庁・ITベンダー・コンサルが大騒ぎ! ヤバいDX 2023』(全13回)の#11では、鳴り物入りで始まった政府DXは今どうなっているのかの実態に迫る。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

“7兆円”地方投資に自治体システム標準化
壮大な政府DX計画の裏の「超ぐだぐだ」

「モデル地域ビジョンや、デジタル田園都市国家構想交付金の採択は、47都道府県、全国津々浦々に広がりました」――。3月31日、岸田文雄首相は、総理大臣官邸で開催されたデジタル田園都市国家構想(デジ田)実現会議でこう成果を強調した。

 デジ田とは「デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されず全ての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する」というもので、2023(令和5)年度は合計7.7兆円の予算がつぎ込まれている。

 本特集#7で紹介したマイナンバー・マイナンバーカード活用、デジ田、そして自治体DXともいえるガバメントクラウドが、現在の政府DXの主な政策だ。国は、25年度までに全国約1700自治体の主立った基幹業務システムを標準化し、さらにそれをパブリッククラウド上で運用するという計画を立てているのだ。

 自治体の基幹業務システムには、住民基本台帳、地方税、健康保険などの社会保障関連などがあり、現在は各自治体が独自にシステム構築・運用を行っている。役所の仕事はどこでも変わらないのでは、と思いがちだが、実際には独自システムのオンパレードだ。

 一応、業務システムパッケージが各ITベンダーから提供されているものの「各自治体ごとに細かく設定され過ぎていて、全てが別物になっている。そのため自分の経験ではこれまで一度たりとて同じパッケージを使うユーザーの自治体間で、共同利用の検討などが行われたためしがない」と、神奈川県庁デジタル戦略本部室職員で、自治体のITシステムに詳しい岩崎和隆氏は指摘する。

 さらに、民間企業でもたびたび問題になるベンダーロックイン(一つのベンダーにノウハウや仕様の詳細を握られているため、他のベンダーに替えることができない)が横行している。公正取引委員会の調査では、システムの詳細は既存ベンダーしか分からないと回答した自治体は48%に上る(特集『DX狂想曲』「公取委『ITベンダーの自治体顧客囲い込み』初調査の激震、“独禁法クロ判定”で摘発強化へ」)。ガバメントクラウドは、こうした問題を解決するための政策として打ち出された。ベンダーロックインをなくし、業務の効率化を行い、自治体システムのコストを3割削減するのが目標だという。

 地方へのデジタル投資、人手が不足し非効率化した自治体業務のDX化――。掲げられた絵姿は美しい。だがそれとは裏腹のぐだぐだが、実は現在の自治体ITシステムの現場では広がっている。そもそもデジタルとは無縁の事業に巨額が投じられる事態すら、浮かび上がってきた。

 なにより恐ろしいのが、ずさんなスケジュール管理により移行が進まず、25年度に大混乱が起こりそうな自治体が全国で数百もあるということだ。仮に実現できたとしても、自治体のコスト削減は進まなそうで、コンサルだけが潤う現状に反旗を翻そうとする自治体も登場し始めた。