物価高対策は直接、市場価格に介入して抑制するやり方でなく、物価高騰の原因になっている要因を除去することによって実現されなければならない。
今回の物価高騰について言えば、円安による輸入価格高騰が大きな要因になっている。したがって、金融政策を正常化することによって為替レートを円高に導き、それによって国内物価の高騰を防がなければならない。
そして実質賃金を引き上げるのは、技術革新によって労働生産性を向上させることが、何よりも重要な課題だ。
ところがそのために何をするべきかという議論は、一向に深まっていない。総選挙でも十分に議論されることはなかった。本当に必要なのは、緊急経済対策で予算額を確保することではなく、労働生産性引き上げのための地道な政策を積み重ねていくことなのだ。
補助政策はやめられない場合が多い
補正予算で歳出膨張の悪弊
物価抑制のための補助政策には他にも問題が多い。その一つは必要がなくなった状況になってもやめられないことだ。
日本では補助政策をいったん導入すると、その必要性が薄れた後も廃止できないで継続するという事例が多い。その典型例がリーマンショック後に導入され、新型コロナ禍で導入された雇用調整助成金の上乗せなどの特例措置だ。
コロナ禍による営業自粛などで失業率が高まることを防止するため、2020年に導入された。その後、新型コロナの影響が弱まったにもかかわらず停止できず、結局23年3月末まで継続された。雇用調整助成金の支給総額は6兆円を超えた。
問題は膨大な支出が行われたことだけではない。この政策はコロナ禍の初期における失業率の高まりを防ぐという機能を果たしたと考えられるものの、その後、休業者が労働力の必要な分野に移っていくことを阻止した可能性が高い。
リーマンショック後に導入されたときも、失業拡大の危険性が薄れたにもかかわらず停止できないとして批判された。コロナ禍では問題がそれ以上に拡大したと考えられる。
ガソリンや電気・ガス代の補助の物価対策もこれと同様の問題を抱えている。
コロナ禍以降は、補正予算で、緊急経済対策だけでなく通常の政策のための予算の増額を行うことが半ば慣例化している。しかも補正予算における歳出の増加は国債増発によって行われる場合が多い。
補正予算で増額が行われるのは、予算査定の時間が限られているため、増額が認められやすい傾向があるためだ。そして歳出が増額し国債発行額が増えても当初予算ほどには国会審議などで目に付かないと考えられるからだ。
本来、補正予算は、当初予算の策定以降に発生した事態に対処するためのものだ。それが歳出増加の隠れ蓑に使われてしまうのは大きな問題だと考えざるを得ない。
こうした悪弊は改め、当初予算で十分な検討と査定の時間を確保した上で、新しい政策を導入するべきだ。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)
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(2024年10月31日13:00 ダイヤモンド編集部)