2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

人間の「認知の癖」を使ってモチベーションを高める6つの効果Photo: Adobe Stock

顧客が行動を完遂するための
モチベーションを高める工夫とは

 続いては、以下の「UXエンゲージメントマップ」の利用中UXの「4.目的を達成する」について説明しよう。

 プロダクトやサービスを利用する中で、顧客が行動を完遂するためのモチベーションを高めることが重要だ。

 そのためには、「行動経済学」で研究されている人間の認知の癖を使うことだ。あまりやりすぎてしまうと、過度にユーザーを扇動してしまうことになるので、おすすめしないが、適度にUXに組み込んでいくとよいだろう。

 下図にあるように、人間の「認知の癖」を使ってモチベーションを高める6つの効果を紹介しよう。

希少効果

 残り少ないと欲しくなる人間の心理を突いたものだ。宿泊施設の予約サイトExpediaでは“残りX室”と表示してあり、それを見たユーザーは、予約を促される。

フレーミング効果

 ある調査によると、性能に応じて価格を変えた商品AとBを提示した場合、AとBを選ぶ人は約50%ずついた。ところが、性能と価格を上げた商品Cを用意すると、Aが25%、Bが50%、Cが25%選ばれた。選択肢が2つの場合は、「品質重視」か「価格重視」かによって判断される。

 しかし、選択肢が3つになると「品質重視」か「価格重視」か、という判断は相対的なものになる。そのため、相対的に見て「値段が高くはない」「品質が悪くない」と判断される真ん中の商品が売れるようになるのだ。

アンカー効果

 1つの基準情報に基づき人間は判断する。たとえばECサイトなどの商品の値段を見た時に、メーカー参考価格から70%オフと表示があったらお得に感じる。元々の値段が恣意的に割高に設定されていても、比較対象になるのは、その価格なので安く感じる。

バンドワゴン効果

 バンドワゴン効果とは、同じ財を消費する人が多ければ多いほど、また、他人の消費量が多ければ多いほど、自分がその財を消費することの効用が高まるという効果である。

エンダウド・プログレス効果

 目的に近づくほどモチベーションが上がる。たとえば、上図の右側にあるスタンプは、上下のどちらも4杯飲めば、Freeのコーヒーを1杯ゲットできるものだ。だが、上のほうをコンプリートする人の割合が圧倒的に高くなる。

コンコルド効果

 ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をし続けることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資をやめられない状態を指す。サイトに必要情報を記入するなどある程度のリソースをかけたら、それがサンクコスト(埋没費用)になりやめにくくなる。

起業参謀の問い

・顧客の「ラストワンマイル」の背中を押すための仕組みを実装できているか?
・逆に仕組みの実装が過剰になり、ユーザーに不快を与えていないか?

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。