2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

起業参謀の必携スキル、ロジカルリスニングとは何かPhoto: Adobe Stock

頭の中でロジックツリーを描くように傾聴する
ロジカルリスニング

 傾聴をより効果的に行うための技術を紹介しよう。ロジカルリスニングといって、情報を整理して聞くことである。

 ロジックツリーはご存じだろうか。ロジックツリーとは、ある事柄に対して問題や原因など、その事柄を構成している要素をツリー状に書き出すことで、解決法を導き出すフレームワークだ。ロジカルシンキングの手法の1つであり、問題を可視化して分解することで、複雑な事柄を捉えやすくなる。

 まさに、頭の中でロジックツリーを描くように傾聴していくことをロジカルリスニングという(下図)。傾聴/ロジカルリスニングを通じて、背後にある「どのように世界を見ているのか」「どのような価値観を持っているのか」も明らかにしていくのだ。

東京オリンピック開催は正しいを
ロジカルリスニングで分析すると…

 下図を見てほしい。コロナ禍で東京2020オリンピック・パラリンピックを開催するか否かについて議論があったことはご記憶だろう。東京2020オリンピック・パラリンピックの開催が「正しい」と主張する人もいたし、「正しくない」と主張する人もいた。

 「正しい」と言っている人は、根拠として「アスリートの活躍の場を提供するべきだ」「オリンピック・パラリンピックで国民の気持ちが盛り上がりポジティブな効果が見込める」「これまで費やしてきた予算が無駄になる」といったことを挙げていた。その背後にある価値観・感情・経験/認識も、下図のように想定できる。

正しくないという主張を
ロジカルリスニングで分析すると…

 一方で、正しくないと主張する人たちは、根拠として「海外から人が来たら感染爆発する」「オリンピック・パラリンピックが開催されると医療従事者のリソースが逼迫してしまう」「スポーツはエッセンシャルなものではない」といったことを挙げていた。その背後にある価値観・感情・経験/認識も下図のように想定できる。

 このように傾聴したり、ロジックツリーを作ってみると、話者の裏側にある経験/認識→感情→価値観(バイアス)の構造が見えてくる

 結論に至るまでに、どのような意味付けをして、そこにはどんなバイアスがあるのかを傾聴して見出す。つまり、表層的な発言だけではなく、結論に至った背景こそが重要なのだ。相手の文脈を理解することにより深い理解につながるだけではなく、客観的にメタ認知を促すことで、コミュニケーションを通じて信頼も得られるようになる

起業家が持つバイアスに気づかせ
自分を客観視できるように促していく

 起業家にとって、極めて大事な能力の1つは、「自分自身を客観的に見ること」である。中には、起業家自身が高いメタ認知能力を持っている人もいるが、そうでない人も多い。起業参謀として「医者の眼」を持って、バイアスに気づき客観視できるように促していく役割は、非常に重要だ。

 特に、先述した「Why型」が多い起業家は、目的に「猪突猛進」しがちであるが、自分の状態を客観視できないケースが多い。結果として、固定観念に固執して動けなくなっていることがある。その際には、なぜそのような思考に至ったのかを咀嚼して、思考を柔軟に解きほぐし、意思決定の幅を出して、判断しやすいようにサポートする。

 傾聴することで起業家が持つバイアスが、ファクトベースのバイアスなのか、固定観念によって引き起こされているバイアスなのかが見えてくる。

 下図のように水面上に見えている「できごと・発言」ではなく、水面下の「行動パターン」や「構造」へと深めていくことで、「無意識の前提/バイアス」に気づくことができる

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。