なぜイーロン・マスクはツイッターを買収し、大量解雇を断行したのか? ツイッター社の社員たちが目撃したその舞台裏とは――。『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)は、マスクの知られざる顔に迫る衝撃ノンフィクション。著者は大ヒット映画『ソーシャル・ネットワーク』原作者、ベン・メズリック。今やアメリカの政治にも影響力を持ち、政府の重要プロジェクトに関与するマスクの動きは、日本にとっても他人事ではない。今回は本書の発売を記念し、ツイッター買収後に起きた、マスクと社員たちの緊迫のやりとりを一部抜粋・再編集してお届けする(全3回のうち第1回/第2回に続く)。

アップルとの抗争
ことの始まりは単なる誤解だ。でもだからといって、たやすく解消できるわけではない。
ここ何週間か一緒に仕事をしてわかったのだが、そもそもマスクの行動原理は事実でも専門知識でもなく、本能と直感だ。
また、彼が対峙しているシステムはどう見ても不当だし、法的に争えば勝てるかもしれないとマスクは考えていたし、実はエスターも同じように考え、同じように憤りを感じてもいた。でもだからといって、たやすく解消できるわけではない。
マスクはアップルに宣戦布告しようとしているが、ツイッターのトップに就任してわずかに1ヵ月で世界最大のテック企業にけんかを売るなど、自殺行為以外のなにものでもない―エスターにとっては自明の理である。
アップルの料金体系にかみつく
念のために指摘しておくと、アプリを通じた購入の30%も持っていくというアップルの料金体系にかみついたCEOはマスクの前にもいたし、特殊なシステムを用意し、それを使ってもらえば、暴利としか思えないこの手数料を回避できるのではないかと考えた事業者もマスクの前にいた。
だが、一握りになってしまったマーケティングと営業の幹部とこの同じ部屋で二日前に打ち合わせをして、その決済の拘束力がいかにすさまじいかを突きつけられると、マスクの顔は怒りで白くなり、目はらんらんと燃えあがった。
マスクの目に、アップルに支払う料金は、儲け主義一辺倒の暴虐的な事業戦略ではなく、革新や自由、競争といった自分の信条と真っ向から対立するものに映ったのだ。
エスターは、とりあえず、マスクの懸念をただじっと聞くことにした。
少し待てば激高も収まって論理的に考え、致し方ないことだ、今後もがまんするしかないと判断してくれるかもしれない。だがそうはならなかった。