なぜイーロン・マスクはTwitter社を手に入れ、大胆な改革と大量解雇を断行したのか? ツイッター社社員が目の当たりにしたマスクの姿とは――。イーロン・マスクによるツイッター社買収の“驚愕の舞台裏”を描いたのが新刊『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)だ。著者は映画『ソーシャル・ネットワーク』の原作者で、累計600万部突破のベストセラー作家のベン・メズリック。NYタイムズやインディペンデント紙など有名メディア絶賛し、極上ノンフィクションとして読み応え抜群の1冊だ。今やいち実業家としてだけではなく、トランプ米政権下で「特別政府職員」としても影響力を拡大し続けているイーロン・マスク。本書で描かれているツイッター崩壊の物語はアメリカの未来を映し、日本にとっても決して他人事ではない。今回は本書の発売を記念して「はじめに」の全文を特別に公開する。

「イーロン・マスクはなぜツイッターを買収したのか」。ツイッター買収の真相に迫る衝撃の1冊【「はじめに」を特別公開!】Photo: sdx15/Adobe Stock

マスクが知られたくない「ツイッター買収」の真相とは?

本書『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』は、取材をいくどとなくくりかえして多くの関係者に直接話をうかがい、また膨大な量の資料を読み込んだ上で、とても風変わりで劇的な企業買収劇を物語るものである。

登場する出来事のなかには、人によって意見の異なるものや、議論になるものもあるが、私としては、取材などで得た情報をもとにできる限り忠実にシーンを再現したつもりである。

ただし、会話の内容やものの見方などは一部再構成してあるし、日付も一部を調整したり圧縮したりしてある。皮肉をきかせる書き方にしたところもある。

取材に応えてくださった方々の要請をうけ、彼らのプライバシーを守るために、複数の人をひとりにまとめたり、名前や特徴を変更するなどしたところもある。 

本書は、イーロン・マスクによるツイッターの買収を公認の物語として記したものではない。マスクの場合はだいたいそうなるのだけれども、取材の依頼は断られてしまった。

そもそも、マスク本人としては、今回のような物語をあまり語られたくないのではないかと思う。

今回は、結末だけでなく、なにをどうしてそこにいたったのかや、その際になにが起きたのかなども記しているからだ。

シーンやコメントをマスクがどう感じ、どう見ていたのかは、関係者や綿密な取材から得た情報に私の推測も交えて構築した。 

マスクほど複雑な人はいない

私は、2008年11月以来の熱心なツイッターユーザーである。なにがなんだかよくわからないスタートアップの時代から、文化、ジャーナリズム、政治を中心としたオンライン有数の重要ソーシャルメディアに育つ過程をつぶさに見てきたわけだ。

そんなこともあり、イーロン・マスクが興味を持っているとのニュースが最初に流れたとき―もちろん、ツイッター上に流れたわけだ―私は、一瞬で引きつけられてしまった。

マスクほど複雑な人はまずいない。

世界でもトップクラスの金持ちであり、テスラとスペースXを生んだ才気あふれるアントレプレナーであり、同時に、インターネットでトップクラスに大胆な「トロール」であるのだから。

1兆ドル企業を経営しつつ、ふざけたミームで米証券取引委員会をからかって楽しむなど破格にすぎると言えるだろう。 

それでもなお、彼がツイッターに狙いを定めたあと、ありえない展開や劇的な展開が次から次へとくり広げられることになるとは思ってもいなかった。

買収が成立するまでの紆余曲折から、マスクがトップに就任し、混乱の数週間を始めたときのサンフランシスコ本社における関係者の行動や気持ち、さらには、世界のタウンホールの民営化がもたらす政治的・文化的な影響という大きな意味合いにいたるまで、本書に登場する人々は、みな個性的で、信条も大きく異なっている。 

我々が公開の場で交わす会話の中心に位置するプラットフォームと当代随一の男とが、ある意味どろどろとした、ある意味こっけいな戦いをこれほどに表で戦うなどまずありえないことであり、これほどに刺激的で、これほどに重い意味を持つ話を物語るのは、これが初めてだと言えるだろう。  

ベン・メズリック

(本稿は新刊『Breaking Twitter』より「はじめに」を抜粋、再編集したものです)