「アップルと戦う、法廷に持ち込んでやる」
この件に関する打ち合わせの3回目では、現状を受けいれる気などさらさらない、アップルと戦う、法廷に持ち込んでやる、必要なら最高裁まで争うとまで言いだしてしまう。
これはさすがにまずいと、エスターは、有料ユーザーをアップルのプラットフォームからウェブに誘導するのが自分たちにとって一番の策だと、別の道を提案した。
しかし、即刻、マスクに却下される。
ウェブ決済ではセキュリティが確保できない、有料ユーザーをウェブに誘導すればツイッターがボットの攻撃にさらされるというのだ。
古い。認識が古すぎる。エスターは、いまのウェブ決済は安全なのだと説明しようとした。
自分自身、ツイッターの決済をストライプでできるようにする仕事をしてきた経験もあったからだ。それでも、「決済のことはオレが一番よく知っている」とマスクはにべもない。
続けて、ウェブ決済のサブスクリプションはいますぐすべて廃止しろとの指示が出た。
つまりツイッターの支払いはアプリ経由のみになる、言い換えればアップル経由のみに近くなるわけだ。これは根拠のない恐れにもとづく悪手だ。そう、エスターは思った。同時に、自分もやり損なったのだと気づいた。
危険を避けるよう、そっと仕向ければよかったのに、対決姿勢で臨んでしまった。そんなことをすれば、マスクは逆に突っ込んでいくとわかっていたのに。
「マスクの正しい取り扱い方法」
マスクについては正しい取り扱い方法というものがあるし、さらに言えば、絶対にしてはならないまちがった取り扱い方法というものもある。
そのあたりは経験からも学んでいたし、それこそ、このビリオネアに初めて会った日にお付きのひとり、つい先日、実務面の連絡参謀となったザ・ボーリング・カンパニーの若きCOO、ジェーン・バラジャディアから教えられてもいた。人のいないところに連れていかれ、こう言われたのだ。
「心に留めておくべきことがいくつかあります。
イーロンはとにかく変わっています。
その彼を支え、彼を守り、物事が彼にとっていい方向に進むようにするのが、これからおそばに仕えるあなたの仕事です。
世の中から彼への働きかけもあなた経由になります。
ですから、これからは、細心の注意を払っていただく必要があります」
マスクが恐れていたこととは?
それから何週間か、マスクへの接し方をいろいろと試してみたところ、どうやら、遊び心と自尊心をくすぐるのがいいらしいとわかった。
一番いいのは、いわゆるミームを夜中にメールすること(朝に送るのは最悪)。きわどければきわどいほどいい。
逆に彼が恐れるのは、世間的な評判に傷がつくこと。
天才だ、史上まれに見るほど偉大なアントレプレナーだと持ち上げられてきたのに、ツイッター買収後は、はっきりと否定的な見方が増えてしまった。そのあたりをすごく気にしているのだ。
(本稿は新刊『Breaking Twitter』の「プロローグ」を一部抜粋、再編集したものです)