格安インプラント
材料費3000円の不安

 今年1月18日、福岡・博多の一等地にある歯科診療所、シティデンタルクリニックの門前に一枚の紙が張られた。そこには「閉院のお知らせとおわび」とあった。

 シティデンタルの経営母体である医療法人樹啓会は2月、約7億1500万円の負債を抱えて破産申請手続きを開始した。今や歯科診療所の倒産は珍しいものではないが、日本中のインプラント業界に激震が走った。

 というのも、60人以上の患者がそれぞれ数百万円ものインプラント治療費を前払いしており、破綻によって患者たちが大金を失ってしまったのだ。すでに治療していた患者に、まともな手術が行われていなかった疑惑までも浮上し、経営の悪質さが問われた。

 法人理事長でもある矢野匡院長は、俳優の梅宮辰夫さんと並んで広告に登場し、九州ではちょっとした有名人。広告では「インプラント手術実績年間1600件」とうたっていた。

 派手に宣伝するも近年は売上高が減少。放漫経営もあって経営破綻した。

 売り上げ不振の背景には、国内インプラント市場全体の急激な縮小があった。出荷本数は2008年をピークに減少に転じ、12年にはピーク時の約3分の2となる40万本強まで落ち込んだ。

 患者離れが始まったきっかけは、07年に東京の飯野歯科がインプラント手術中に患者を死亡させた事件にあった。来院初日に手術する強引な体質が、事故を引き起こしたといわれるが、行き過ぎたもうけ主義は飯野歯科に限ったことではなかった。

 11年には国民生活センターがインプラント治療のトラブルが多いとし、歯科業界に対して早急に対応するよう要望書を提出した。