“移植”というと、肝臓移植や、腎臓移植、角膜移植など、第三者から提供を受けた臓器を移植する大掛かりな手術を思い浮かべる人が多いはず。しかし、移植の中には、もっと身近にできるものもある。

 それが、自分の歯を抜き、自分自身の口の中の別の場所に移植する「自家歯牙移植」だ。これは、自家移植といわれるもので、歴史も古い。日本大学歯学部付属歯科病院口腔外科IIの本田雅彦氏は、「歯の移植は、古代エジプト時代にも行われていたという記述もあるほどです」と話す。この“歴史ある”自家歯牙移植の成功率を高める新たな技術が開発され、注目を集めているのが、X線CT(コンピューター断層撮影装置)を用いて行う「レプリカを使った自家歯牙移植」だ。

 自家歯牙移植に使われることが最も多い歯が“親知らず”。

 親知らずは、歯並びが完成した18~24歳で生えてくる一番奥の歯のことで、「智歯」とも言われる。一番奥に位置しているため、歯磨きなどが行き届かずに、虫歯になったり、炎症を起こすことが少なくない。そのため、抜歯しても噛み合わせなどに影響が少ない親知らずは、虫歯などになる前に予防的に抜くこともある。

 しかし、実は、健康な親知らずが残っていれば、自家歯牙移植に使うことができる。虫歯や歯周病で他の自分の歯を抜かなければならなくなったとき、移植に利用できるというわけだ。

 一般的には、抜歯後の治療法は、ブリッジやインプラント。しかし、「義歯などの人工物を使いたくない」、「ブリッジにするために、隣接した健康な歯を削りたくない」、「インプラントには抵抗がある」というニーズも少なくない。そういう人に向くのが、この自家歯牙移植である。

 とはいえ、誰もがこの自家移植を行えるわけではなく、一定の条件がある。その一つが、前述したように、移植する親知らずが虫歯や歯周病でない健康なものであること。そしてもう一つが、親知らずがまっすぐ生えていて、傷つけることなく完全な形で抜歯ができることである。

 一方、移植される側にも条件がある。第一に、奥歯の臼歯であること。第二に、歯の根っこを支える骨である歯槽骨の量が十分にあることだ。歯槽骨の量は、移植した歯が生着するために必要だからだ。

 通常、自家歯牙移植は次のような手順で行われる。

(1)移植される部位(移植床)の歯を抜歯、
(2)移植する親知らずを抜歯、
(3)移植床を抜いた親知らずの根の形に合わせて、削りながら整える(形成)、
(4)親知らずを形成した移植床に埋め込み、7~10日間固定する、
(5)親知らずが生着したら、数ヵ月後に噛み合せを整える治療を行う。

 こうした移植を成功させ、移植した歯を生着させるためには重要なポイントがある。