定年後の仕事には、どんな選択肢があるのか。年収を追い求めるべきか、働きがいを求めるべきか。あるいはそもそも働くべきなのか。これまでであれば「定年」で終わっていた仕事人生の「その後」で悩んでいる人も多いだろう。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。定年後の年収が高い仕事のメリット・デメリットについて聞いた。(取材・構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

【定年後の仕事】65歳以降もお金のために「年収の高い仕事」を選ぶべきか? メリットデメリットとはPhoto: Adobe Stock

ダントツに年収の高い職種とは

――65歳以降も働く人が増える中で、経済的な理由や自己実現のために「稼ぎたい」というニーズは根強くあるのではないかと思います。「定年後の仕事」として、最も高い年収を稼げる職種は何でしょうか?

坂本貴志氏(以下、坂本):65歳以上の就業者を対象とした調査で、最も収入水準が高かったのは「営業」の仕事です。営業職の平均年収は373万円で、『定年後の仕事図鑑』で取り上げる他の職種と比較してダントツに高い水準です。年収500万円以上の人が21.1%もいることから、現役時代と変わらない、あるいはそれに近い水準の収入を得ている人も一定数いることがわかります。

――定年後は収入水準が大きく下がることが一般的だと言われる中で、営業職がこれほど高収入を維持できるのはなぜでしょうか?

坂本:営業職は成果主義的な側面が強く、これまでの経験や専門性が直接報酬に結びつきやすいからです。たとえば、保険代理・仲立人、金融・保険営業、不動産営業などの分野では、現役時代に培った顧客基盤や深い専門知識を活かし続けることができます。

インタビュー事例では、30代から始めた保険営業の仕事を81歳の今も続けている方がいらっしゃいました。既存契約の保全(契約に関する事務作業や継続確認など)を中心に仕事をされています。この方は長く個人で働いていたため年金が少ないという経済的理由から仕事を続けている面が大きいものの、慣れた仕事であり、80代になっても継続できています。

高収入の仕事のデメリット

――高収入であることは非常に魅力的ですが、誰もができるわけではありませんよね。デメリットや注意点にはどのようなものがありますか?

坂本:やはりストレスやプレッシャーが大きいことですね。アンケート調査では、「時間が自由」「自分の裁量でできる」という良い面を挙げていた人が多い一方、「常にノルマとの戦い」などストレスやプレッシャーを挙げる人が非常に多かったです。無理なくマイペースで働きたい人には不向きかもしれません。

――定年後に未経験で始めることも難しいでしょうね。

坂本:そうだと思います。現役時代からの経験や専門性を活かす側面が非常に強いため、定年後に未経験で始めるのはハードルが高いと言えます。とくに金融・保険営業は、資格試験に合格し募集人として登録される必要があります。

また、平均労働時間は週35.6時間と長く、フルタイム勤務が大半を占めます。そのため、体力的な負荷も無視できません。

――高収入を目指すならば、現役時代の経験を活かした専門性のある仕事で、かつ高いストレス耐性と体力が必要そうですね。

坂本:そうですね。65歳以降も現役世代とあまり変わらずにバリバリ働いている方が一定数いるのは事実です。でも、多くの人は短時間で無理なく、ストレスの低い仕事にシフトしていますね。心身ともに健康でいられることが重要ですから、ご自身の体力と合った働き方かどうかは見きわめる必要があると思います。

もし高収入を維持しつつ現役時代の延長線上で働きたいのであれば、60代半ばまでは現在の会社で継続雇用を選び、厚生年金加入期間を長くして将来の年金額を増やす戦略も有効です。

(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)

坂本貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。