働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)

【定年後の仕事】会社員は65歳まで、再雇用で働くべきか? 50代から考えるべき定年後の戦略とはPhoto: Adobe Stock

仕事を3つの時期に分けて考える

――坂本さんは『定年後の仕事図鑑』の中で、「定年後の仕事」について考えるうえでは仕事のキャリアを「新卒~定年後までの一本道」で考えないことが大事だとおっしゃっています。

坂本貴志氏(以下、坂本):はい。仕事人生を「若年~中堅期」「中高年期」「高齢期」の3つに分けて考えるといいと思うんですね。

①若年~中堅期
新入社員から50歳くらいまで。スキルアップしながら組織内で昇進・昇格し、それによって高い収入を得ることにモチベーションを求める時期。

②中高年期
50~60代半ばまで。まだまだ稼ぐ必要があるものの、組織内での立場で限界が見え、気力・体力の面で変化がある。公的年金支給が始まる65歳まである意味もうひと踏ん張りの時期。

③高齢期
60代半ば以降。この時期に入ると年金の支給が始まり、子どもも独立して家計支出が減少する。

中高年期の転職をどう考えるか

――中高年期には、今後のキャリアや老後についての悩みが出てくると思うのですが、どのようなことに気を付けると良いでしょうか。

坂本:中高年期は、若年~中堅期と高齢期のつなぎ目です。この時期にどのような選択をするかは、定年後の人生を大きく左右すると言えます。

定年後までのキャリアは一本道ではないとお伝えしていますが、中高年期の「転職」には注意が必要かもしれません。

データで見てみましょう。

リクルートワークス研究所の大規模調査で、60代前半の「正社員として継続して働く人」「再雇用されて働く人」「転職した人」の満足度を比べたところ、同じ会社で働き続けている人の満足度が高く、「転職した人」の満足度が低いことがわかっています。

また、50代に転職した人の中で、50代前半・後半それぞれの満足度を調べてみると、50代前半で転職した人は比較的満足度が高いんですね。つまり、転職をするのであれば、定年を迎える直前に焦ってするのではなく、気力体力が十分にあって活躍できる時期に考えたほうがいいということがうかがえます。

なかでも、50代前半に「積極的な理由で転職した人」は満足度が高いです。

――会社の都合で転職したのではなく、前向きなチャレンジとして転職したということですよね。

坂本:そうですね。中高年期の転職に比較的多いパターンは、大企業から中小企業にうつるケースです。中小企業の場合は定年制がなかったり、定年を65歳に引き上げたりしている会社の割合が、大企業より多いんです。正社員として長く働き続けることができれば、生涯年収は上昇します。それを見据えて転職するという戦略は十分考えられますね。

ただやはり、慣れない環境や仕事に適応する難しさは覚悟しておく必要があるでしょう。今後のキャリアを考えて転職する場合は、早めに、戦略的にするのがいいと思いますね。

そして、定年まではこれまでの経験を活かして働き続けるのが基本路線となります。

60代前半までは会社に雇用されて働くのが基本の戦略

――定年後は、キャリアはどう変わるのでしょうか。

坂本:60歳で定年となった場合は、再雇用によって同じ会社で働き続けるかどうかという選択になると思います。2025年4月より継続雇用制度が義務化されており、希望すれば65歳まではそのまま働き続けることができます。多くの場合は報酬水準が下がりますが、これまでの経験を活かしながら働き続けることができるんですね。

公的年金を受け取ることができるのは65歳からです。それまではなるべく会社に雇用されて働きながら、将来の年金の額を増やすことが重要な戦略だと思います。

65歳以降は「小さな仕事」で豊かな暮らしを実現

坂本:そして、65歳以降の「高齢期」におすすめしたいのが「小さな仕事」です。これまでのキャリアとは違い、報酬はそれほど高くはないけれど、労働時間が短く、仕事の負荷やストレスが少ない仕事であり、「世の中に必要不可欠で社会に貢献する価値のある仕事」のことを指しています。

――60歳前後から役職を外れるなど、徐々にキャリアの道に変化はあったでしょうが、65歳では大きく変わるのですね。

坂本:はい。それをぜひ前向きにとらえていただきたいんですね。これまで組織の中でホワイトカラーとして大きな仕事をしてきた人などは、「小さな仕事にはやりがいを持てないのではないか?」と思うかもしれません。でも、データや実際に働いている人たちの声を聞いていくと、現役世代の先入観とは違う実態が見えてきます。

仕事に対する向き合い方は年齢に応じて変わります。

高齢期の就業者は、身近な人の役に立つことや社会への貢献、仕事で新しい体験をすることや、体を動かすことに喜びを感じる人が増えていくんです。実際、仕事の満足度は若年期から中堅期の就業者よりも、高齢期の就業者のほうが高い傾向にあります。多くの人が無理なく、満足度の高い仕事をしながら豊かな暮らしを実現しているんですね。

――『定年後の仕事図鑑』にはさまざまな「小さな仕事」に就いているシニアの方のインタビューが載っています。みなさん前向きに新しいことにチャレンジされたり、仕事の中に楽しみ・喜びを見出されているので、読んでいるこちらが元気になる感じがしました。

坂本:今のシニアの方は若々しく、とても元気ですからね。実際に働かれている方の声はとても参考になるのではないかと思います。本書では高齢期から始めやすい19職種、100の仕事について収入や労働時間等のデータとともに紹介していますので、どんな仕事があるのか見てみると、65歳以降の人生をよりイメージしやすくなるのではないでしょうか。

(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)

坂本貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。