働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)

【定年後の仕事】65歳以上の調査で「ダントツで年収が高い仕事」ベスト1とは?Photo: Adobe Stock

定年後の稼げる仕事ナンバーワンは営業職

――『定年後の仕事図鑑』には、高齢期からでも始めやすい19職種、100の仕事が年収や労働時間などのデータとともに紹介されています。このなかでもっとも年収が高いのは「営業」とのことですね。

坂本貴志氏(以下、坂本):はい。収入がダントツに高いのが営業です。平均年収は373万円で、年収の分布を見ると500万円台の人が21.1%と高い割合で存在しています。平均労働時間は35.6時間で、大半がフルタイム勤務です。現役世代の延長線上で働いている方が多いと考えられます。

ストレスやプレッシャーが多い仕事ですが、高齢で稼げるという意味では良い職種ですね。ただ、現役世代からの経験を活かしてやっている方が多く、定年後に始めるのはハードルが高いと思います。

――現役のときにやっていた営業の仕事を、定年後に業務委託で引き継いでやっていらっしゃる方もいるのでしょうか?

坂本:そうですね。インタビューをさせていただいた81歳の方は、30代から始めた保険営業の仕事を続けていらっしゃいます。既存の契約の保全を中心にしていて、新規獲得営業はほとんどないとのことでした。この方のように経験やスキルがあって、独立して自分でやっていける方は80歳になっても続けられるんですよね。保険だけでなく、不動産、金融、自動車などさまざまな営業の仕事があります。

収入の高い職種・2位は?

――「営業」の次に年収が高い職種は何でしょうか。

坂本:事務です。平均年収は237.9万円で、年収500万円以上の人も9.9%存在しています。労働時間の分布を見ると週に35~42時間働く人が36.1%ともっとも多く、フルタイムよりやや短い時間働いている人が多いとみられます。

ストレスは高めですが、長く続ける環境があれば高収入を維持しやすいと言えます。

――現役のときに勤めていた会社に、そのまま雇用されるかたちで続けているということですよね?

坂本:はい。まず、2025年4月より継続雇用制度が義務化されていますから、60歳で定年を迎えても希望すれば65歳まではそのまま働き続けることができます。多くの場合は報酬水準が下がりますが、これまでの経験を活かしながら働き続けることができ、仕事の満足度も高いんです。

いまは定年延長をする企業や、65歳以降も雇い続ける企業が増えてきています。ですから、65歳以降も引き続き活躍できる人は、事務の仕事を続けるという選択肢もじゅうぶんあり得ます。

ただ全体として見れば、事務の仕事は65歳以上比率が低いです。現役世代と同じ仕事をずっと続けられる人は割合としてごく一部であるのが実状です。

――確かに、現役世代と同じ仕事を続けるのはきつそうです。本書に載っていたインタビューの中で、71歳の方が週に3~4日、リモート勤務で事務のサポートをしているとおっしゃっていたのを見て、そのくらいなら……と思ったのですが。

坂本:そうですね。リモートで働ける職場はそれほど多いわけではないですが、そういう働き方もあり得ます。ただ、リモートOKの仕事は現役世代からも人気がありますから、ある程度スキルがないと難しいかもしれません。

稼がなくていいなら選択肢はさらに広がる

坂本:「営業」や「事務」の仕事は現役時代の仕事からの延長でイメージしやすいと思います。ただ、定年後の仕事はもっといろいろな仕事がありますよ。家計の状況は人によって違いますが、65歳以降はそれほど稼がなくていいでしょうから、短い時間で月に10万円くらいの「小さな仕事」をしながら豊かに暮らすというのが本書の提案です。やってみたいと思ったことはあるけれど、現役時代には縁がなかった仕事も、定年後ならできるかもしれません。

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(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)

坂本貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。