なぜ筋トレしている人は「脳も若い」のか?
運動は健康にいい。それは誰もが知っていることだが、じつは運動は身体だけでなく「脳」にも良い効果をもたらす。そう指摘するのは、オックスフォード大学の研究員として世界的難病の治療法の発見に貢献し、現在は医師としても活躍する脳と糖の専門家である下村健寿氏。著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』で、「糖に毒された脳」を「糖毒脳」と名づけ、糖が認知機能を崩壊させるメカニズム、そして脳を守るための習慣を紹介している。その習慣の一つが、「運動」である。なぜ筋トレや運動をする人は「脳が若いまま」でいられるのか。その理由を、同書から紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
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脳を蝕む「意外な魔の手」
脳の認知機能を蝕んでいく、意外な「黒幕」がいる。
元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏は著書『糖毒脳』で、こう指摘している。
じつは私たちの身近なところに、脳を蝕む「魔の手」が潜んでいます。
それは、日々の食生活に潜む「糖」です。
――『糖毒脳』より引用
糖を摂ると、上がった血糖値を下げるためにインスリンが分泌される。
しかし糖を摂りすぎてしまうと、インスリンは過剰分泌され、やがて出づらくなったり、効き目が落ちたりしてしまう。
インスリンは脳内で「学習」や「記憶」を司る脳神経細胞同士の情報伝達をスムーズにしたり、アルツハイマー病の原因となる「アミロイドβ」などによる攻撃から脳神経細胞を守る役割も果たしている。
そのインスリン分泌に異常がおきるため、結果として糖の摂りすぎは認知機能の崩壊につながるのだ。
どうすればインスリンの「過剰分泌」を防げるのか
糖が認知機能に与えるダメージを抑えるために有効なのが、「運動」だ。
その理由を理解するために、インスリンが血糖値を下げるメカニズムを、もう少し詳しく見てみよう。
私たちの血中にある糖は、筋肉細胞の表面にあるドアを通って筋肉の中に入り、エネルギーとして使われる。
このドアは「GLUT4(グルットフォー)」と呼ばれ、インスリンはこのドアを作ることで血糖を筋肉に取り込ませ、血糖値を下げる。
血中の糖が増えるほど、ドアもたくさん必要になる。つまり、大量のインスリンが必要になる。
すると全身の臓器が過剰なインスリンにさらされ続け、インスリンの効き目が落ち、やがてドアを作る機能も鈍くなってしまうのだ。
厳密に言うと、インスリンは「糖を摂るから分泌される」というより、「ドアを作る」ために分泌されるのである。
ということは、インスリンを使わずに筋肉細胞の表面に糖が通るドアを増やすことができれば、インスリンの過剰分泌は不要になる。
筋トレする人は「脳が若くいられる」理由
そんな都合の良い方法があるのかと思われるかもしれないが、じつは2つの方法がある。
1つは、「薬」だ。
じつはインスリンと同じ効果を実現できる薬がある。糖尿病の治療薬であるメトホルミンだ。
まだ研究段階ではあるが、アルツハイマー病にメトホルミンの服用が有効である可能性を示唆する論文も報告され始めているという。
しかしこの方法について、下村氏はこのように指摘している。
「こんな素晴らしい薬があるなら、これを使えばいいじゃないか!」と思われるかもしれません。しかし、やはりこれは薬です。糖尿病ではない人が服用すれば副作用のリスクも伴います。
そして何より、メトホルミンによって作られた糖のドアは残念ながら長持ちしません。動物実験の結果を見る限り、わずか3時間ほどで消えてしまうのです。そのため糖尿病患者さんには1日に2~3回ほど服用してもらうことが多いのです。
――『糖毒脳』より引用
そこで、下村氏が多くの患者に勧めているのが、インスリンに頼らずに糖のドアを作る2つ目の方法。
「運動」だ。
じつは運動をすることで、メトホルミンと同じく、インスリンの力をまったく借りずに糖のドアを作ることができるのです。それによって、血中に増えた糖を筋肉で消費させ、血糖値を下げられます。
その上でメトホルミンと大きく異なるのは、作られたドアの「持続時間」です。
メトホルミンでは3時間ほどで消えてしまった糖のドアですが、高強度の運動をわずか15分程度行うだけでも作られ、なんと72時間、つまり3日間も筋肉細胞の表面に留まっていることが、最新の研究で明らかになっています。
――『糖毒脳』より引用
高強度の運動を15分行うだけで、薬の24倍もの効果を得られるのである。
運動は、副作用の心配もなく、インスリンの分泌を抑制してインスリン抵抗性を解除し、血糖値を下げることができる最高の手段なのだ。
これなら、インスリンの効き目が落ちたり、分泌機能に異常が起きることもない。
インスリンは、脳神経細胞同士の情報伝達をスムーズにしたり、アルツハイマー病の原因物質から脳神経細胞を守ったりといった役割を果たし続けられる。
だから、筋トレといった運動をする人は、いつまでも「脳が若いまま」でいられるのだ。
(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








