仕事や人間関係で限界を迎えたとき、精神科医に「あること」を期待して受診する方は少なくありません。しかし、多くの方が「医師なら当然してくれるはず」と誤解している、精神科医には“どうしてもできない”重要な役割があるのです。休職の診断書をめぐる落とし穴から、あの病名の診断が難しい理由まで。いざという時に戸惑わないために、ぜひ知っておきたい精神科医の“本当の限界”をお話しします。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・斎藤順)
※本稿は『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)の著者による特別原稿です。
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精神科医に「どうしてもできないこと」とは?
今日は「精神科医がどうしてもできないこと」というテーマでお話しします。
専門外のことができないのは当然ですが、今回お伝えしたいのはそういうことではありません。精神科医という職業柄、よく患者様から求められたり、「できるだろう」と誤解されたりしがちな、“ある重要なポイント”についてのお話です。
結論から言うと、皆さんにお伝えしたいのは「私たち精神科医には、病気がなぜ起きたのかという因果関係の証明はできない」ということなのです。
診断書に「原因」は記載できない
よくあるパターンとして、適応障害やうつ病などで休職される患者様がいらっしゃいます。その際、「上司や苦手な人の言動が原因で適応障害になった」「職場の環境が原因でうつ病になった」というニュアンスの診断書や書類を作成してほしい、と依頼されることがあります。
しかし、基本的に精神科医はそうした書類を作成することはできません。私たち医師の役割は、目の前にいる患者様の「現在の現象(症状)」を診て診断をつけ、治療方針を立てることです。
もちろん、「親との接し方」や「職場のトラブル」といったご事情をお聞きし、カルテに記載することはできます。しかし、現在の鬱状態や不安障害といった「病名」をつけることはできても、ご本人のお話だけで「それが原因である」と証明することはできないのです。
会社へのアプローチは法律の専門家の領域
夫婦間や他人とのトラブルが背景にあって治療を進めることは多々ありますが、診断書に残せるのはあくまで「現在の状態」のみです。
そのため、「職場の環境が悪くて体調を崩したから、会社に対して何らかのアプローチをしたい」となった場合、それは私たちの領域ではなくなります。
現在の病状の証明(診断書)とこれまでの経過をもって、会社側と交渉したり因果関係を証明したりするのは、弁護士などの「法律の専門家」のお仕事になります。精神科医には因果関係の証明ができないということは、ぜひ頭に入れておいていただきたいと思います。
「PTSD」の診断が難しい理由
少々込み入った例として、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」のお話もしておきましょう。
PTSDは、トラウマ(外傷体験)によって精神的に不安定になり、フラッシュバックなどをともなう疾患です。実は、PTSDと診断するためには「トラウマ(原因)があった」という前提が病名の定義に含まれています。
しかし、先ほどお話しした通り、私たちには「これがトラウマです」という証明ができません。戦地にいた、大きな事故に遭遇したなど、事実が明白な場合は診断できますが、当事者同士のトラブルなどが原因の場合、客観的な証明が非常に困難になります。
病名の中に因果関係を含んでしまうPTSDは、実はとても慎重に判断しなければならず、実質的になかなかつけづらい病名でもあるのです。
まとめ:精神科医にできないこと
今回お伝えしたかったのは、「精神科医には因果関係の証明はできない」ということです。
これから精神科を受診しようと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、医師が出せる診断書は「現在の状態や病名に対するものだけ」であることを、あらかじめ知っておいていただければと思います。




