AI業界の次なる壁は「保険」Photo:fotograzia/gettyimages

 人工知能(AI)の安全性に関わる一連の問題が、急成長するこの業界が抱える大きな穴を露呈させている。それは保険の不足だ。

 暴走したAIエージェントがウェブサイトに侵入した。AIチャットボットが自殺や殺人を助長したとして非難されている。あるAIエージェントは未解決の殺人事件について虚偽の情報を提供した。こうした新しい事案は、チャットボットによる被害やAIモデル訓練時の著作権侵害を巡る訴訟を抱えたAI開発企業にとって、法的リスクを一段と高めている。

 世界を変える無限の可能性があるように見えるAIには、AIを開発または利用する企業を法的にぜい弱にしかねない広範な被害を生む可能性もある。

 AI関連リスクを専門とする保険会社によると社会全体にAIの導入が広まるにつれ、AI開発大手は数百億ドル規模、場合によっては数千億ドル規模に上る潜在的な法的責任を積み上げつつある。一部の業界関係者からは、米政府に賠償責任の公的救済制度を求める声すら上がっている。

 複数の保険仲立ち人(ブローカー)会社によると、AI企業は一般賠償責任保険やサイバー保険といった従来型の保険一式を保有している。しかしAI・保険両業界の関係者によると、AI業界は驚異的なスピードで成長しているため、AI関連の保険金請求がこうした保険の限度額を上回る可能性があるという。

「AI資本ブームが生み出しているリスクのあらゆる側面において、引き受け余力が不足しすぎている」と、プロフェッショナルサービス企業マーシュの保険ブローカー部門マーシュ・リスクのニック・スチューダー最高経営責任者(CEO)は話す。「だが、それは変わりつつある」

 一部の保険会社は、AIエージェントによるものも含め、AIリスクに特化した保険を販売している。しかし、その保険の補償限度額は、大手AI企業が抱える潜在的な損失リスクに比べると小さい。再保険を手掛けるミュンヘン再保険の広報担当者によると、同社はAIモデルの間違いを補償する保険を提供しており、補償限度額は最大5000万ドル(約79億円)だという。

 スタートアップ企業はこの空白を埋めようとしている。保険会社各社もAIは将来的に専門商品の新たな商機になるとみている。

 米アンソロピックの元社員であるルーネ・クビスト氏は、ロンドンの保険市場ロイズの支援を受けるアーティフィシャル・インテリジェンス・アンダーライティング・カンパニー(AI保険引受会社)の共同創業者だ。 アンソロピックと米オープンAIの新規株式公開(IPO)計画は、「こうしたリスクに対する保険やその他の安全網における空白」への注目をさらに高めている、とクビスト氏は話す。