今やニュースなどでも耳慣れたものとなった「スタートアップ」。福岡市では、他の自治体に先駆けて、いち早くその支援に取り組んできた。拠点となる施設や相談窓口の設置、イベントの開催、資金調達支援など。その成果は、開業率7年連続で政令指定都市1位というデータからも明白だ。しかし、高島市長がスタートアップ支援を強化してきた背景には、雇用や税収の増加といった直接的な経済効果にとどまらない別の意図があった。(本稿は高島宗一郎・著『福岡市の問題解決』を一部抜粋・編集したものです)
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リスクを取る人が尊敬される街を作る
よく誤解されるのですが、私は福岡市の「開業率を上げる」ためにスタートアップを支援してきたわけではありません。開業率は結果にすぎません。私が本当にやりたいことは、リスクを取ってチャレンジする人が尊敬される社会を作ることです。
ここに、私の世代特有の危機感があります。私は1974年生まれ。団塊ジュニア世代の終わりに当たります。バブルが弾けた直後、いわゆる就職氷河期の真っ只中に社会に出ました。
この世代が背負わされたものは、決して軽くありません。希望していた職に就けず、非正規雇用で長年苦労を重ねてきた人たちが、私のまわりにもたくさんいます。その上で、湧き上がってくる思いがあります。
「失われた時代の犠牲者」「可哀想な世代」と外側から定義されたままで、終わりたくない――。
私たちの世代がここで諦めてしまえば、下の世代に渡すものまで失われてしまいます。もう一度この国を、自分たちの手で成長軌道に戻したい。
少なくとも、自分の街には、リスクを取ってでも未知の分野に飛び込む若い起業家が次々と出てくる土壌を作りたい。
これこそ、私が福岡市政のど真ん中にスタートアップを据え続けてきた理由です。
チャレンジする人と同じだけの覚悟をリーダーが持てるか
私は、他の自治体の首長から「うちでもスタートアップ支援を始めたい」と相談を受けたとき、いつも「首長の覚悟がもっとも大切です」とお伝えしています。
スタートアップというのは、単に「できたばかりの小さな会社」ではない。既存のマーケットに新しいプレイヤーが入る、つまり既得権者と摩擦を起こす存在です。
スタートアップ支援を本気でやるということは、業界団体や長年取引してきた地元企業、規制を所管する省庁など、既得権者との摩擦を引き受けるということです。覚悟がない首長が、流行り言葉として「うちもスタートアップ支援をやっています」と看板を掲げても、肝心の場面でひるんでしまえば何も動かないでしょう。
行政に限らず、民間でも、地域コミュニティでも、そこから逃げないリーダーがいる組織だけが変化を生み出すことができるのです。



