「部下のために一生懸命働き、積極的にコミュニケーションを取っている。それなのに、なぜか部下から信頼されない。そんな悩みを抱える管理職は少なくありません。実は、部下の信頼を失う原因は、厳しい叱責や高圧的な態度だけではありません。多くの上司が無意識に繰り返している、ある「小さな行動」が問題なのです。外資系企業と日本企業で人事責任者を務め『冷えた組織を熱くする リーダーの切り札』を上梓した南和気氏が解説します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

リーダーの切り札部下Photo: Adobe Stock

「いいことを言う上司」が信頼されない理由

「何か困ったことがあったら、遠慮なく相談してほしい」

「これからは、みんなが自由に意見を言えるチームにしたい」

 部下との信頼関係を築こうと、こうした言葉をかけている管理職は多いのではないでしょうか。

 しかし、どれだけ熱心に語りかけても、部下の反応は薄い。会議で意見を求めても誰も発言せず、1on1でも当たり障りのない話しか出てこない。

 なぜ、上司の思いは部下に伝わらないのでしょうか。

 私は、外資系企業と日本企業の双方で、20年以上にわたって管理職を務め、多くの管理職の育成にも携わってきました。

 その経験からお伝えしたいのは、部下の信頼を失うのは、必ずしも大きな失敗をしたときではないということです。

 むしろ、日常の何気ない行動の積み重ねによって、部下の心は少しずつ離れていきます。

 なかでも、管理職に特に気をつけてほしいNG行動があります。

 それは、「小さな約束を守らないこと」です。

「あとで確認するよ」が部下の信用を壊している

 例えば、部下から相談を受けたとき、こんな返事をしていないでしょうか。

「わかった。あとで確認しておくよ」

「その件は、部長に話しておくから」

「来週までに返事するね」

 上司としては、部下を安心させようとして言った言葉かもしれません。

 しかし、日々の業務に追われ、確認を忘れたり、返事を後回しにしたりすることがあります。

 上司にとっては数ある仕事の一つにすぎないかもしれませんが、部下はその言葉を必ず覚えています。

「相談したのに、何もしてくれなかった」「結局、口だけなんだな」

 こうした経験が重なると、部下は次第に上司を頼らなくなります。

 そして、表面上は従順に振る舞いながらも、心の中では「この人に相談しても仕方がない」と諦めてしまうのです。

 これが、チームの空気が冷めていく原因の一つです。

「信用」と「信頼」はまったく違う

 ここで知っておきたいのが、「信用」と「信頼」の違いです。

 信用とは、過去の実績や約束を守った経験によって積み上がる評価です。

 一方、信頼とは「この人についていけば大丈夫だ」という未来への期待です。

 つまり、部下から信頼されるためには、まず信用の土台が必要なのです。

 マネジメントの分野には、コンサルタントのチャールズ・グリーンらが示した「信頼の方程式」という考え方があります。

信頼=(一貫性+専門性+親密さ)÷利己心

 約束したことを実行する「一貫性」、仕事に必要な「専門性」、相手との「親密さ」を高め、自分の都合ばかりを優先する「利己心」を小さくすることが、信頼関係の構築につながります。

 この観点から考えると、いくら立派なビジョンを語っても、普段から約束を守らない上司の言葉が響かないのは当然でしょう。

 部下は、上司が何を言っているかだけでなく、「言ったことを本当に実行しているか」を見ているからです。

部下の信頼を取り戻すために、明日からできること

 では、管理職は何から始めればよいのでしょうか。

 私は、まず3つの行動を意識してほしいと思います。

 第一に、小さな約束ほど徹底して守ることです。できない約束は安易に引き受けず、一度引き受けたことには責任を持ちます。

 第二に、上司だからこそできる役割を果たすことです。経営層との調整や他部署との交渉など、部下だけでは難しい仕事を引き受け、結果につなげます。

 第三に、部下の意見や不安を、すぐに否定しないことです。たとえ自分と異なる意見でも、まずは最後まで聞き、相手の考えを理解しようとする姿勢が大切です。

 部下は、自分の話を聞いてもらえていると感じて初めて、上司の言葉にも耳を傾けるようになります。

 管理職は、チームを変えようとするとき、つい大きなビジョンを語ったり、新しい制度を導入したりしたくなるものです。

 しかし、その前にやるべきことがあります。

 部下の心を動かすのは、立派な言葉ではなく、日々の小さな行動です。

「あとでやっておくよ」と言ったことを、きちんと実行する。

 そんな当たり前の積み重ねこそが、冷めた組織を変える第一歩になるのです。