部下の成長を願っているのにうまくいかないのはなぜか。実は、論理的に追究するほど、部下を思考停止に追い込んでいる可能性があります。外資系企業と日本企業の双方で人事責任者を務めてきた現場の問題を見るプロフェッショナルで『冷えた組織を熱くする リーダーの切り札』の著者である南和気氏が解説します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

リーダーの切り札なぜPhoto: Adobe Stock

「なぜ?」と聞くほど部下は黙る

 部下がミスをしたとき、こんなやり取りをしていないでしょうか。

「なぜ、確認しなかったの?」
「時間がなくて……」
「なぜ時間がなかったの?」
「ほかの仕事が立て込んでいて……」
「だったら、なぜ早めに相談しなかったの?」

 最終的には部下が黙り込み、「すみません。次から気をつけます」と謝罪して終わる。

 上司としては、感情的に怒鳴ったわけではありません。むしろ冷静に質問を重ね、ミスの根本原因を突き止めようとしたはずです。

 ところが、部下から具体的な改善策は出てこない。それどころか、次第に報告や相談まで減っていく。

 実は、ここに多くの管理職が陥る落とし穴があります。

 それは、「なぜ?」を繰り返すことが、必ずしも部下の思考を深めるわけではないということです。

部下は「非難されている」と受け取る

 製造業などでは、問題の根本原因を突き止めるために「なぜ」を繰り返す「なぜなぜ分析」が使われています。

 モノや仕組みに対して原因を掘り下げることは、非常に有効な手法でしょう。

 しかし、それをそのまま部下への指導に持ち込むと、逆効果になることがあります。

 なぜなら、上司が「なぜ確認しなかったのか?」と尋ねたとき、部下は単なる原因分析の質問ではなく、「なぜあなたは、そんなこともできないのか?」という非難として受け取ることがあるからです。

 ここで関係するのが、脳の「扁桃体」という、不安や恐怖に関わる部位です。

 人は強い脅威を感じると、防衛的な反応が優先され、冷静に考えることが難しくなります。いわゆる「扁桃体ハイジャック」と呼ばれる状態です。

 そのとき部下の頭を占めるのは、「どうすれば再発を防げるか」ではありません。

 あるのは、「これ以上怒られないためには、何と答えればいいか」「どうすれば、この場を早く終わらせられるか」という自己防衛の感情です。

 特に1on1のような、上司と部下が一対一で向き合う場では注意が必要です。

 つまり、上司は「原因を考えさせている」つもりでも、部下は「正解を答えなければ怒られる」と感じているかもしれないのです。

「Why」ではなく「What」や「How」を使う

 では、部下がミスをしたとき、どのように問いかければよいのでしょうか。

 ここで役立つのが、世界的なリーダーシップ育成の専門家、マーシャル・ゴールドスミスが提唱した「フィードフォワード」という考え方です。

 これは、過去の問題だけにとらわれるのではなく、未来の行動や改善策に焦点を当てるアプローチです。

 具体的には、「Why(なぜ)」を「What(何が)」「How(どうすれば)」に置き換えます。

 例えば、次のような言い換えです。

「なぜ確認しなかったの?」
→「確認するうえで、何が障害になったの?」

「なぜ早く相談しなかったの?」
→「どうすれば、もっと早い段階で問題に気づけるだろう?」

「なぜ同じミスを繰り返すの?」
→「同じミスを防ぐために、どんな仕組みが必要だろう?」

 ポイントは、単に質問を優しい表現に変えることではありません。「あなたが悪い」という責任追及から、「私たちで何を変えられるか」という問題解決へ、対話の方向を変えることです。

 上司自身も「私にできるサポートはある?」と問いかければ、部下は問題を一人で抱え込まずに済みます。

 もちろん、原因究明や必要な指導をやめるわけではありません。重要なのは、部下を責めるのではなく、部下と一緒に問題の原因を探り、再発防止につなげることです。

 管理職の本質的な役割は、「部下から反省の言葉を引き出すこと」ではないはずです。大切なのは、次に同じ問題が起きないよう、行動を変えてもらうことです。

 部下への質問を「何が?」「どうすれば?」に変えるだけでも、対話の質は大きく変わるはずです。