「謙虚さこそが、最強の戦略だ」と主張するのは、モルガンスタンレー、Googleなどで働き4大陸50カ国以上のリーダーを見て続けてきたピョートル氏。
謙虚なリーダーがチームや部下、組織から信頼されるためにやっている思考と行動があると語ります。謙虚な人がやっている具体的な行動規範と思考法について解説してもらいました。新刊『「謙虚さ」という戦略』から一部抜粋・編集してご紹介します。

一流の謙虚なリーダーが積み重ねている「クレディビリティ」とは?Photo: Adobe Stock

壮大なビジョンの宣言よりも大切なこととは?

 リーダーシップ研究で知られるクーゼスとポズナーは、40年以上にわたり、世界各地のリーダーシップ事例と調査データを蓄積し、「“クレディビリティ”こそがリーダーシップの土台だ」と論じてきました。

 クレディビリティとは、日本語では「信用」「信頼」「確実性」などと訳されます。
 自分たちのリーダーの影響力の有無は、過去に積み重ねてきた言動に裏打ちされた信用と、「このリーダーと一緒なら大丈夫」と思える信頼でできています。
 この信用と信頼(クレディビリティ)は、どのように築かれるのでしょうか?

信用・信頼を積み重ねるリーダーの共通点

 最も重要なのは、言行一致です。
 信用はリーダーの壮大なビジョンの宣言などではなく、「言ったことを実行する」という地道な積み重ねから生まれます。
「言っていることと、やっていることが違う」という言行不一致は、信用を積み上げるどころか、失わせることにしかなりません。
 たとえば、「金曜日は会議室を掃除する」といった、取るに足らない些細な決定であっても、言ったことは守る、やると決めたことは実行する。そういった積み重ねでクレディビリティは出来上がります。

 このクレディビリティを作るうえでも、謙虚であることは構造的な強みになります。
 謙虚な人は、自分の限界を知っているからこそ、実現可能な約束だけをします。だから約束が守られ、信用が積み上がります。
 傲慢な人は、自分の能力を過大評価したり、確実性の低いことであっても「できる」と断言したりしがちです。
 たとえ小さな約束であったとしても、それが破られるたびに信用が目減りしていきます。
 信用の積み重ねがない人には、未来を託す信頼など生まれるはずがないのです。

優秀な人ほど、「間違っている可能性」を保持できる

 言ったことに責任を持つことと、一度決めた判断に固執することは違います。新しい事実によって判断を変える必要があるときは、その理由を説明し、責任を持って修正する。
 そのために大切なのが、「全力でやる。でも間違っているかもしれない」という姿勢です。これは、あらゆるビジネスにおける意思決定の前提となる重要なマインドです。

 意思決定の場面において、「自分の判断は間違っているかもしれない」という余地を残している人は謙虚な人です。
 自分の判断が絶対的な正解ではなく、常に間違っている可能性も保持しておける。判断が誤っていた場合はもちろん、市場や状況の変化によって、一度決断したことでもそれを変えられる。
 そのとき、「自分は間違えない」「いつも正しい判断をしている」という認識の人は、この誤りを認めることができません。特に高い地位にいる人ほど難しいものです。

 なぜなら、それは自分の立場や権力を揺るがす脅威になるからです。
 だからこそ、「私の見方はあくまで暫定的なもの」という認識が大切です。

 あなたの論理的思考は、自分の育った環境、認知バイアス、過去の判断と結果、そのフィードバックによって形作られています。どれだけ自分の判断に確信があっても、それはひとつの解釈であり、現時点における推論にすぎない。つまり絶対的な真実ではありません。不完全なデータに基づいた判断にすぎないからです。

 これは、自分の判断を明確に示しながらも、それを絶対視せず、新しい事実に応じて修正できる思考法なのです。

謙虚なリーダーは、「確信」と「間違いの可能性」を同時に抱える

 自分の見方をはっきり断言しないと、その人は「優柔不断で弱い」と見られるのではないか。
 そう考える人もいます。でもこれは、まったくの逆です。

「自分の見方は、あくまで暫定的なものだ」と知っている人ほど、正確で精度の高い意思決定を下し、スピーディーにビジョンを追求できます。
 そういう人は、手元に届くデータを検討し、最善の選択をして実行します。それでいて、自分が正しいことへの執着を完全に手放しているため、新しい矛盾するデータが出てきたときは、即座に方向転換できる柔軟さを持っているのです。

 真の謙虚なリーダーは、自分の判断に完全にコミットし(しっかり握り、情熱を持ってチームを推進しながら)、同時にその判断が間違っているかもしれないという一見矛盾する2つの真実を、葛藤なく同時に抱える力を持っています。

 完全に信じながらも、完全には執着しない。
 これが戦略的謙虚さの絶対的な本質であり、周囲からの信用を勝ち得る重要な思考法なのです。

ピョートル・フェリクス・グジバチ

連続起業家、投資家、経営コンサルタント、プロノイア・グループ株式会社 代表取締役、株式会社GA technologies 社外取締役

ポーランド生まれ。2000年に来日。モルガン・スタンレーを経て、Googleでアジア太平洋地域の人材開発と組織改革に携わる。2015年にプロノイア・グループを設立し、組織開発と経営者コーチングを行う。講演者としても、国内外の経営層やカンファレンスで基調講演を行っている。2016年に共同創業したモティファイでは人材育成プラットフォーム「Motify」を400社超に導入し、2019年に同事業を譲渡。組織の内側、経営者、取締役会という3つの立場から、日本の組織を見てきた。著書は『世界最高のチーム』『世界最高のコーチ』(ともに朝日新聞出版)、『心理的安全性 最強の教科書』(東洋経済新報社)、『NEW ELITE』(大和書房)など多数。本書が20冊目となる。エンジェル投資家としても活動するほか、東京・永田町のポーランド料理レストラン「Ani Mru Mru」のオーナーを務める。