先月開催された「ad:tech tokyo 2013」の基調講演に登壇した米ツイッターのチーフ・メディア・サイエンティストであるデブ・ロイ氏は、ツイッターとテレビの同時体験がもたらすパワーについて、ニュートンの運動方程式(「力=質量×加速度」)を引き合いに「メッセージの影響力はメディアの質量と社会的加速度の掛け算」と説明した。
同時視聴の100人とタイムシフトの100人は何が違うか
チーフ・メディア・サイエンティスト
デブ・ロイ氏
ロイ氏は、MIT(マサチューセッツ工科大学)の准教授として、認知科学、機械学習といった分野で多くの研究実績があるだけでなく、ツイッターが買収したソーシャルテレビの分析会社であるBluefin Labsの創業CEOであるなど、ビジネス界でも成功した人物だ。
買収後もツイッターで引き続き、ソーシャルメディアの影響力の研究を続けるロイ氏によると、従来のリーチ(視聴・接触した人数=量)にのみ依存したメディアの影響力の測定は十分ではないという。
たとえば、同じテレビ番組を100人に同時に配信する場合(通常の放送)と1日に1人ずつ100日に分けて配信する場合(タイムシフト、ないしはオンデマンド視聴)では、番組が持つメッセージの影響力は前者のケースのほうが大きいと考えられるが、量だけを見ていれば同じ100人でそこにある違いに気づくことは難しいだろう。
ここにメッセージが伝播するスピードの重要性が示唆されている。より身近な具体例でいえば、テレビでジブリ映画が放送された当日に、レンタルDVDでもジブリ作品がふだんよりも借りられているという現象にこうした力学が働いているということだ。では、ここでいうスピード/社会的加速度は、どういうもので、どういうメカニズムで生じるものだろうか。
ロイ氏は複雑な人間行動の結果を物理学の単純な一次方程式で完全に説明することはできないが、人間の記憶力と注意力についてのよく知られた2つの心理学的知見が、人間の行動特性を端的に示し、社会的加速度の理解に役立つとしている。
まず記憶力だが、19世紀にヘルマン・エビングハウスは、人間の記憶力がとてもはかないものであることを実験で示した。記憶の正確さは体験の直後では100%であっても、19分後には60%に低下し、1時間後には50%以下になる。“忘却曲線”として知られる記憶の急激な低下は、記憶の共有は即時的に行われなければ効果がないことを示している。