京大とJSTの知財のスクラム

中山智弘(なかやま・ともひろ)
1997年千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(工学)。民間企業の研究員から2002年に科学技術振興事業団へ。独立行政法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)フェロー、内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付、内閣官房国家戦略室政策参与を経て、現在、JST科学技術イノベーション企画推進室参事役、JST・CRDSフェロー/エキスパート、文部科学省元素戦略プロジェクト・プログラムオフィサー。各種の政府委員等も務める。

北川 独自技術を有する企業の場合は、「これは特許にせず社会に出さない」というケースもあります。それは企業戦略です。特許がオープンになるとすぐにマネをされてつくられてしまう危険性もあるので、守る部分は守らないといけない。けれども、僕らはそうはいきません。あくまでも税金を使って研究をしている以上、特許を広く公開しないわけにはいかないからです。だから特許は出すけれども、情報は審査でクリアできる程度に留める。ただし、共同研究契約などを結んだ企業には直接指導してすべてを教えています。企業のなかには、「特許や論文を見てやってみましたが、うまくいきませんでした」というケースもあります。そのときは研究室に来てもらって、2泊3日ぐらいで実地でつくり方を教えます。ノウハウがいろいろとありますので、そうしないと、なかなかつくれませんから。

──それは教えてもかまわないんですか。

北川 京都大学内にある知財・ライセンス化部門(産官学連携本部)やJST(科学技術振興機構)などを通して企業と共同研究をやっていますから大丈夫です。知財は京都大学やJSTが持っています。

中山 研究成果を守るために苦労されているんですね。

北川 なぜ、そうしているかというと、1つには自分のためもあるのですが、結局は「国力を維持するため」ですね。

中山 そうそう。

北川 私のこの「元素間融合」のプロジェクトでも、すでに国から5億円以上の資金援助を受けています。それだけ国民の税金や法人税を投入されているので、成果はまず日本の企業に使ってほしいと思います。そのようなライセンス契約を前提にして、共同研究をいくつかスタートさせる予定です。大手のクルマメーカーも、NOx(ノックス)の還元触媒ということで進めています。

中山 特許は非常にお金がかかるため、最近、国としても特許資金が自由には出せない状況です。私の属するJSTでも、昔はかなり特許出願料を援助していましたが、いまは有望な特許に予算を絞っています。

北川 JSTもたしかに最近は財政事情が厳しいですから、特許出願の支援に関してかなりうるさくなっているのですが、JSTから年間3件しか選ばれない「選定型」という特別支援を2013年に受けることができました。

中山 JSTの「選定型」というのは、大事な特許については周辺も含めて「群化」して特許をすべて取っておこうという主旨のものです。重要なものは特許を1つぐらい押さえても周りの特許を固められたら終わってしまいます。ですから、たとえ多額の出費にはなったとしても、本当に国として大事だと考える特許については、周辺も含めて全体を押さえておこうという制度です。

北川 光栄にもその1つに選ばれたわけで、最大5000万円の特許出願料をJSTのほうで面倒をみてくれるという話です。
 実は、特許庁の外郭団体でインピット(INPIT)という組織があって、そこから知的財産プロデューサーという特許戦略の専門家を最大2年間、私の研究室に派遣してくれるという話しがあります。正式にはまだ決まっていませんが、これもJSTが強く推薦してくれました。「次はこういう特許戦略でいきましょう」とアドバイスをしてくれたり、ライセンス化も扱ってくれたりします。個々の企業との共同研究で発生する知財も交通整理をして管理運用してくれるということで、国が「元素戦略」プロジェクトに非常に強くサポートしてくれています。