ジョセフ・E・スティグリッツ 著 藪下史朗 監訳藤井清美 訳ダイヤモンド社刊 1700円(税別) |
去る10月22日、早稲田大学創立125周年記念事業の一環として、ジョセフ・E・スティグリッツ教授の公開コンファレンスが行なわれました。主催は、本書の監訳者でもある藪下史郎教授がプロジェクトリーダーを務める早稲田大学21COE―GLOPE(開かれた政治経済制度の構築)で、会場の大隈記念講堂は学生や研究生、一般参加者、メディア関係者で埋め尽くされました。
この席でスティグリッツ教授は、経済のグローバル化がもたらす影響とその結果について、最新の見解を提示してくれました。グローバル経済における中国とインドの役割、いわゆる「ワシントン・コンセンサス」の誤り、発展途上国における市場の失敗、さらには米国サブプライム・ローン(低所得者向け住宅ローン)危機の原因と各国に及ぼす悪影響についてなど。いま世界はフラット化していると言われますが、経済格差などの側面からみると、むしろ世界はボコボコになっているそうです。
経済学に明るくない私が、それでもスティグリッツ教授の講演に深い共感を覚えながら拝聴できたのは、論説が明快なことに加えて、本書の編集を通して効果的な「予習」ができたからではないかと思います。
スティグリッツ教授の約4年分のコラムを収録した本書には、ノーベル賞経済学者の教授がその時々でどんなテーマに着目し、いかなる見解を持つに至ったのかが、克明に記されています。その内容も、グローバリゼーション、地球環境、国際貿易、知的財産権、中国の台頭、資源の呪縛、イラク問題、各国の経済政策、経済予測など多岐にわたります。
本書を巻末まで読み通すと、スティグリッツ経済学の輪郭が浮き彫りになるとともに、巷の経済政策や学説には間違いが多いということに気づかされます。「日本の読者への序文」に教授が記した「全体は部分の総和より大きいことがある」という言葉は、けだし箴言だと思います。
また、本書には、日本版書籍向けのオリジナル論文「21世紀初めの日本と世界」を収録しています。アジア金融危機と京都議定書の採択から10周年に当たる現在、日本と先進各国は何を教訓とし、どのような針路を進めばよいかということが、教授ならではの鋭い分析で論じられています。
本書をきっかけに、相互依存の高まった世界経済に目を向けてはいかがでしょうか。
(編集担当:小川敦行)
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