ラスキーノ
ガートナー バイス・ プレジデント 兼 ガートナー フェロー
2014年1月15日水曜日、ロンドンからグラスゴーへ出張した。飛行機の窓から見えるのは典型的などんよりとした陰気な雨のイギリスだった。フライト中は正確かつ良質な経済紙「フィナンシャル・タイムズ」(FT)に目を通しながら、ゆったりと贅沢な時間を過ごした。
FTには毎日“企業面”があり、記者たちが産業界の刻々と移りゆく動向を伝えている。興味深いことに、34本の記事のうち11本が、その本質においてITやデジタルがビジネスモデルや産業、市場に与える変化に関するものだった。
金融から旅行、自動車まで。ITが産業を変える
いくつか紹介しよう。
・“ザップ”の登場――イギリスの銀行18行のコンソーシアムが設立した決済会社・ボーカリンクがスマートフォン向け決済システムアプリ“ザップ”を提供する。銀行業の未来をめぐる激しい競争のなかで、他分野からの脅威をかわすことが“ザップ”に期待されている。
・(上記の競争の)潜在的なプレーヤーの1つであるスクエアは、非公開の株式取引によって、約50億ドルもの評価額がついた。
・ヨーロッパの航空会社のコンソーシアムがドットコム・ブームの際に設立した“オポド“を含む複数企業の買収の末に統合されたオンライン旅行会社のIPO(新規株式公開)が、プライベートエクイティの会社によって検討されている。
・フォード・モーターのアラン・ムラーリー CEOは、“パーソナル・モビリティ”は同社の戦略思考の中心にあると述べた。先進産業社会では、若者たちは自動車を運転したり所有したりすることに興味を示さなくなっている。その理由の1つは、インターネットやモバイル、ソーシャルが移動を伴わずに個人的な交流の自由を与えていること。
もう1つは、電気自動車や自動運転技術、デジタルメディアサービスを搭載した自動車が、我々と車との関係を根本的に変えてしまうこと。もちろん、若者への販売手法も変わる。
・イギリスに本社があり、世界的に展開するオンライン専業ファッション小売、エイソスはわずか4カ月間に37パーセントの増収を達成したと発表した。
・一方で、伝統的なイギリスの大手百貨店、ディベンハムズのクリスマスシーズンは不振だった。金融および小売業界のアナリストは、「オンライン販売の時代から取り残されたのだろう」と述べている。