自分の汗の臭い、汗ジミが
気になって仕方ない

 Mさんが仕事柄一番気にしていたのが、清潔感。朝晩のシャワーは欠かさないし、下着や靴下は必ず職場に着替えを置くほどの徹底ぶりだった。美容院にも10日に1回はカットのために通っていた。

 その夜、Mさんは自宅近くのコンビニに寄り、殺菌剤の強いボディソープを買った。いつも外国製で無添加のアロマソープを愛用していたが、この日を境に国産のポティソープに替えた。自分の汗の臭いが残らないように何度も何度もゴシゴシ洗った。お風呂上がりに着ていた服は洗濯機に入れ、スーツには消臭スプレーをかけた。しかし、Mさんはまだ気になっていた。

 「もしかして俺っておやじ臭い?」

 Mさんはお客様に出す料理や飲み物の味に影響が出ないように香水はつけない。しかし身だしなみとして、ワイシャツやハンカチにアロマオイルを少しだけ沁み込ませていた。フランス人のホテルマンから聞いた香りの楽しみ方だ。

 しかし臭いが気になり始めた翌朝は、自分でアイロンをかけ、アロマオイルをワイシャツに垂らしながらも、いつもと違う様子を感じていた。

 都心に向かう満員電車のなかで、昨日のように汗が出てきた。しかし、つり革に掴まることができない。つり革に掴まると自分の汗のシミのできた腋が目立ってしまうからだ。今日に限って、薄いグレイのペンストライプのスーツを着てきてしまったことをMさんは多いに後悔した。

 長身のMさんは電車で、背の低い親父サラリーマンの頭皮や顔の臭いをかぐことが多く、それを嗅ぐたび、顔が歪んでしまう。しかし満員電車で、自分で額から顎の汗を拭いているときに気づいた。自分もその臭いがしていることを。

 最近読んだ本に、耳の後ろの付け根の部分からする臭いがその人本来の臭いと書いてあった。嗅いでみたら明らかにおじさん臭い。30歳を過ぎたあたりから汗の臭いが変わるということも、Mさんはインターネットで知った。気づかないうちに自分も、そうなっていたらしい。それを思えば思うほど、余計に汗が出てくる。