これまで既存事業の堅実な成長を望んでいた経営者も、業務を支える企業ITを確実に提供してきた大手企業の守旧派CIOも、口々にイノベーションの重要性を訴えるようになっている。事業部門のIT利用者も、ITの専門家であるIT部門も、ITを活用したイノベーションを能動的に提案していくことが求められるが、これまでそのような発想で仕事をしてきておらず、イノベーションのアイデアを創出する手法を持ち合わせていないのが実情といえる。

企業のITイノベーションへの
取り組みは十分とは言えない

 伝統的な大企業を含むあらゆる企業が、閉塞感のある経済環境の中で生き残りをかけてビジネスイノベーションを求めている。なかでもICT技術の活用は、イノベーションの触媒として大きな期待が寄せられており、とりわけ経営の高度化や事業創造を担う企画部門やITの専門家集団であるIT部門は、ITを活用したビジネスや業務のイノベーションを起案し、事業部門と協力してこれを推進していくことが今後の重要なミッションとなっている。

 いくつかの企業は、イノベーションの重要性を認識し、社内アイデア募集や報奨制度などを実施しているが、その活動の多くは従業員個人のボランティア精神に依存しており、アイデア創出、評価、試行、推進といった一連のプロセスを体系的に確立しているとは言い難い。

 ITを活用したイノベーションへの取り組みは、企画部門やIT部門がそれぞれ独自に起案する場合もあろうが、時には事業部門を巻き込んだイノベーション会議などを展開して行う場合もあるだろう。その際には、誰かがファシリテーターとしてその活動を主導することが求められる。しかし、これまでこうした活動を主導した経験が少なく、手法を持ち合わせていないという企画部門やIT部門も少なくない。ここでは、企業がチーム活動などによってイノベーションのアイデアを創出する際の手法を紹介する。

アイデアの発想法と
分析フレームワーク

 アイデアの発想法については、原著初版が1940年の不朽の名作『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング著、CCCメディアハウス)が出版されたころから70年以上多くの研究がなされてきたが、今もって定番と呼べる手法は確立されていない。同書でヤング氏は、材料を収集したうえで、それをさまざまな角度から解釈したり、組み合わせを考えたりした後に一旦放置すると、ふとした瞬間にアイデアが生み出されると述べている(図1)