今、マスターとママは、会社員で言えば定年の年齢を超えている。リタイアは当然のことなのかもしれない。しかし廃業する数年前まで、2人は「客が減った」と何度も漏らし、愚痴をこぼしていた。高学歴の会社員を食い物にする野心は、最近まで捨てていなかった。

負けたのは、会社で不満を抱えて
大酒を飲んでいたあの連中だろ?

 なぜ、この店は消えたのかといえば、マスターがビジネスモデルを変えることができなかったことに尽きるのではないか。ママもまた、そのモデルを長年にわたり追認していた。高卒で中小企業に入り、行き詰まっていた男と離婚し、シングルマザーとして店の経営に苦労していたママとの合作が、「高学歴社員が集う、負け組御用達スナック」だった。

 このスタイルをいつまでも変えることができない、いや、しようとさえしなかったことが、きっと敗因なのだろう。小さな店を経営する商売人ではあっても、経営者ではなかったのかもしれない。マスターのこんな声が聞こえてきそうだ。

「俺たちは、高級マンションも別荘もある。蓄えもある。何ら困らない。リタイアしただけのこと。『負け』なのはあんたらや。会社で昇格できずに不満を抱え、大酒を飲んでいた、あの連中だろう?」

 マスターの口ぐせが、「人の不幸は蜜の味」だった。渋谷からまた1つ、長い歴史を持つ店が消えた。


タテマエとホンネを見抜け!
「黒い職場」を生き抜く教訓

 今回登場した「スナックM」のマスターは、実は企業社会のホンネとタテマエを見抜くことができている。それに対して、この店に出入りする高学歴社員たちはそれを見抜くことができていない。だから、マスターのカモにされ続けたのだ。

 この構図は、企業に勤めるビジネスパーソンが、同僚や取引先との関係性の中で処世術を考える上でも、参考になると思う。マスターと社員との関係性を分析することで、読者に対して教訓を述べたい。