会社員と学歴――。これはビジネスパーソンにとって、採用試験から退職に至るまでの間、良くも悪くも不即不離の関係にある。今回は少し趣向を変え、高学歴ではあるものの会社員人生に行き詰まるお客と、彼らをターゲットに荒稼ぎをするやり手のスナックとの関係性を観察することで、ホンネとタテマエの狭間で苦しむビジネスパーソンの屈折した自尊心に迫りたい。

 残念なことに、この「負け組御用達スナック」は最近、閉店した。筆者がこの店に通った十数年の間に見た人間模様が、今回のエピソードのベースとなっている。


高学歴ダメ社員ばかりが
集まる「負け組酒場」の風景

高学歴なのに会社で浮かばれない――。そんな社員たちは夜な夜な「負け組酒場」に集まり、うさを晴らす
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 太い声と乾いた笑い声が響く。

「どこの大学出身? A大学? ああ……。あそこでは、大企業で役員になるのは難しいよね。せいぜい部長どまり。しかも部下は数人。A大学で偏差値の下のほうの学部を卒業しても、部長にもなれないだろう。A大学じゃなあ……」

「はははは……(笑)」

「バカ言っちゃいけませんよ。お客さんが卒業したB大学法学部は、ほんの一時期は東大並みだったんですから……。今は、C大学やD大学と変わんないけど。このレベルではなあ……」

「ははははは……(笑)」

「E大学の外国語? 49歳? お客さんが受験した頃だよね。A大学の政経、F大学の経済、E大学の外国語が御三家になったのは? まぁ、数十年後の今、そのほとんどが部長にもなれないけどね」 

「ははははは……(笑)」