だからこそ自虐史観への風当たりは強くなる

 売れなければ生産されない。需要があるから供給が発生する。これは市場の原理だ。日本人は世界中の人たちから尊敬されていると自画自賛する本は、実際に売れているのだろう。世界に誇る偉業を成し遂げた日本人がたくさんいると強調するテレビ番組の視聴率は、実際に良いのだろう。だからこそ量産される。

 その帰結として、自画自賛への対極とされる自虐史観への風当たりは強くなる。誇り高くて勇気ある日本人なのだから、それを否定するような論調が許されるはずはない。それは捏造だし国益を損なうのだ。テレビや書籍だけではない。日本人を愚弄するような映画も許されない。かつては『靖国 YASUKUNI』や『ザ・コーブ』など海外の監督が作ったドキュメンタリー映画がその標的になったけれど、どちらも公開を目前にして起きた上映中止運動だった。でもアンジェリーナ・ジョリーが監督した『アンブロークン』は、いまだに公開の目途すら立っていない。つまり自主規制的な雰囲気がさらに強くなっている。

 昨年12月に北米で公開された『アンブロークン』は、太平洋戦争時に日本軍の捕虜となったルイス・ザンペリーニの体験を基にした書籍の映画化だが、公開の目途が立っていないのだから、現状では日本で観た人はほとんどいない(もちろん僕も観ていない)。

 ところがネットや雑誌などで、「反日映画」とか「事実を歪曲している」とか「日本を貶めている」などの評価が氾濫し、日本での上映反対を訴える署名運動も起きている。

 ちなみにこの作品は、アンジェリーナ・ジョリーにとって監督二作目だ。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景とした一作目の『最愛の大地』は、日本では2013年に多くの映画館で公開されている。それなりにヒットした。何といってもハリウッドで最も話題になる女優だ。その二作目を日本で公開しない理由は見当たらない。

 爆撃手として搭乗したB-24が墜落して日本軍の捕虜となったルイス・ザンペリーニは、名前が示すようにイタリア移民の家系だ。陸上選手でもある。1936年のベルリン・オリンピックに出場したときは、5000メートルで8位に入賞している。神奈川県大船にあった捕虜収容所でザンペリーニは、収容所を管理する日本軍伍長に苛烈な拷問を受けるが、ぎりぎりのところで生き延びて日本の敗戦後に解放される。

 帰国後もPTSDに苦しめられ、自分を虐待し続けた伍長への憎悪と殺意に苛まされる日々を送ったザンペリーニは、やがて日本軍兵士たちを赦すべきだとの考えに至り、1950年に再来日して、巣鴨プリズンに服役していた元看守や日本兵たちと再会して手を握り合う。さらに1998年の長野オリンピックでは、聖火ランナーとして長野の街を走り、多くの日本人から声援を受けている。