幸せはお金じゃないんだよ

 上海の家庭で食べる料理は一汁三菜が基本だという。

 「中国人の食事は必ずスープが一種類、入ります。身体を温めるからです。加えて、野菜料理が二種類。そして、魚か肉料理が一種類。そして、ご飯。上海の人は残りご飯をチャーハンにすることはまずありません。おかゆにすることの方が多い。でも、ご飯はその都度炊く人がほとんどでしょうね。残さないように食べます」

ご夫妻が「典型的な上海の家庭料理」だと思っているのが、トマト卵炒め。蔡菜食堂でも人気のメニューだ

 ふたりが「典型的な上海の家庭料理」だと思っているのはトマト卵炒め。蔡菜食堂でも人気のメニューだ。

「卵を油で炒めて、別皿に取りのけておく。ざく切りにしたトマトを炒めて合わせるだけ。味つけは塩です。紹興酒やごま油を入れると卵のくさみが取れますよ」

 ふたりは来日してから27年になる。近頃では1年に一度は帰国するようになった。帰国すると親戚たちと食事をする。親戚のなかには中国の発展に合わせて金持ちになり、世界旅行を楽しんでいる家族がいるという。

 それで、わたしは冗談を言った。

「おふたりも日本に来ないで、上海で不動産屋をやっていたら、1億円くらいは貯まっていたんじゃないですか?」

 蔡さん夫妻は真顔で首を振った。

「あなた、そんなことないよ。日本に来てよかったよ。和田さんとも会えたし、お客さんが来てくれるから。あなた、知ってる? 幸せはお金じゃないんだよ。毎日、仕事をして、ご飯がおいしく食べられたら、幸せでしょ」

 ふたりが結婚したのは29歳と25歳の時だった。ともに日本語の勉強をしていて、知り合い、公園でデートを重ねた。

「映画行ったね」(妻)

「『追捕』だ!」(蔡さん)

「高倉健が出てた!」(妻)

「中野良子も出てた! でも、あれはデートの時の映画じゃないね。もっと前に見た」(蔡さん)

 文化大革命の後に初めて公開された外国映画として、中国で1億人が見たといわれる高倉健主演の「追捕」。原題「君よ、憤怒の河を渉れ」は、1979年の公開である(日本では1976年)。だから、デートの時に見た日本映画はきっと違うものだ。 


「蔡菜食堂 (サイサイショクドウ)」

◆住所
東京都中野区中野3-35-2
※JR中野駅南口より徒歩2分
◆電話
03-5385-6558
◆営業時間
17:00~23:00
月曜休み