入山章栄氏の対談連載「日本のブルー・オーシャン企業」。第6回は低迷していた新日本プロレスの業績を回復させたブシロード社長(新日本プロレスオーナー)の木谷高明氏との対談後編をお届けする。新日本プロレスの海外戦略から、競合といかに戦うかまで、話を伺った。
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動画配信が成長のカギ
入山章栄(以下:入山) 新日本プロレスさんは、かつてのストロングスタイルを捨てて、わかりやすいプロレスを強調することで、女性や子どもなどのファンを獲得しました。まさに「市場の境界線を引き直す」という、ブルー・オーシャン戦略です。さらに木谷さんはプロレスを「キャラクターコンテンツ・ビジネス」として捉えることを、対談の前半で強調されていました。
それにくわえて、いまの新日本プロレスさんのやり方は、昔はテレビに頼っていたのを、マルチメディアにすることで成功したとも言われていますよね。
木谷高明(以下:木谷) そうですね、本当はもっとテレビに頼りたいのですけれど、スポーツ自体の視聴率が下がっていますし、ゴールデンタイムでプロレスを放映してもらうことは、現実的に難しい。会社としてテレビの位置付け自体を変えなければいけないのは明白です。それにいま人がもっとも接触するメディアがテレビかと言われれば、そういう時代は既に終わっています。今や、多くの人がテレビを見ない日は結構ある。でもスマホを見ない日はないと思います。
入山 おっしゃる通りですね。
木谷 だから自然と会社の戦略もスマホにシフトするしかないし、スマホに誘導するために、テレビをもっと有効に使うべきなんですよね。
入山 「スマホを使わせるためのテレビ」ですか。スマホでは具体的には何をされているんですか。
木谷 いま『新日本プロレスワールド』というのに最も力を入れています。主な大会のライブ中継や過去の試合が見られるウェブサービスです。これはスマホ、もしくはPCやタブレットの利用者を想定していて、会員数は20万人まで持っていきたいのです。海外の会員数も既に約15%を占めています。動画配信サービスを始めるにあたって、新日本プロレスには過去の試合映像の蓄積が40年間分あるのも強みになりました。
入山 海外比率を高める際に、主な市場はアジアを考えられているんですか、それとも北米ですか。
木谷 やっぱりアメリカですね、マーケットが大きいです。
入山 アメリカだと、世界一のプロレス団体WWEがいますよね。そういった競合をどのように考えていらっしゃいますか。
木谷 確かにアメリカにはWWEがいますが、だからこそプロレスファンがいっぱいいるわけですよ。うちはプロレスのスタイルが違うので、試合内容で差別化ができると思っています。
むしろ現状怖いと思っているのは、うちの選手が直接WWEに引き抜かれる可能性の方です。現場には全く本気にされていないですけれど、私は「英語ができない外国人選手を育てたら」と言っているんです。