「中国人なのに中国に馴染めないって、どうして?」と思われるかもしれないが、筆者の知る限り、こうした中国人は案外多い。若くて頭が柔軟な時代に海外留学して見聞を広めた人に多く、中国に帰国後、中国人的な仕事の進め方や周囲との濃い人間関係、秩序のない生活環境に溶け込めずに、苦しんでいる。生き馬の目を抜く中国で、肩で風を切って生活するのはとてもしんどいことなのだ。

 周さんは東北地方の旧満州で生まれた。母親が日本人家庭とつき合いがあり、「幼い頃によく日本人がつくってくれた味噌汁を飲んで育った。だから私は日本人っぽいんだわ」と笑いながら話していたこともあった。夫の仕事の都合で中国に戻ったが、「いつか日本に帰りたい」と切に願ってきただけあって、数年後の夫の定年は待ち遠しいものだった。夫婦で話し合った結果、老後は日本に住もうという話になったのだという。

「夫と私の兄弟はともに北京にいますが、その子どもたちは独立してそれぞれ生活しており、一部はアメリカに移住しています。相当な財産でも残せれば話は違うのでしょうけど、私たちの老後の世話まではしてくれません。それならば、長年払い続けてきた日本の年金で夫婦2人、日本に骨を埋めようと腹をくくったのです。日本の食品は安全だし、気を張って生活する必要もない。病院も中国では心配なので、できることなら日本の医療を受けて、死にたいと思います」

人生の最期を異国で暮らす
ことに不安はないのか?

 少し切なくなる話だが、周さんの夫は日本で長年年金を払ってきたので、当たり前といえば当たり前の結論とも言える。ただ、いくら日本語ができるといっても、人生の最期を異国で暮らすことに不安はないのだろうか。筆者がそう尋ねると「全然。中国にいたって、知り合いは限られた範囲だけ。母国だからといって、助けてくれる人が多いわけじゃない。私は日本の医療は世界一だと信じていますから、何かあったら日本の病院で診てもらって、納得した治療をしてもらいたいです」と話していた。

 最近「爆買い」現象の影で密かに増えているのが中国人の訪日医療ツアーであることは、知る人ぞ知る事実。どんな富裕層であっても、中国国内では満足のいく医療はほとんど受けられない。「健康診断や治療はどんなにお金がかかっても日本で受けたい」という人が増えている。むろん、日本にいたからといってハイレベルな治療が受けられるとは限らないし、日本の医療現場にも問題が山積しているはずだが、中国に比べればはるかにいい、ということは明白だ。周さんとメールのやりとりをしていて、「日本行き」を指折り数えている姿が目に浮かぶようだった。