消臭芳香剤では「消臭力」や「脱臭炭」、防虫剤の「ムシューダ」、除湿剤の「ドライペット」などのユニークな商品を連発するエステー。その開発と販売をリードしてきたのが鈴木喬会長だ。P&Gや花王などの巨人たちが割拠する日用品業界で独自のプレゼンスを発揮できている理由はどこにあるのか。直面する経営課題にどのように向き合ってきたのか。鈴木会長が「小さな中堅企業が勝てる戦略」を披歴する。
社長の人格次第で会社はよくもなるし悪くもなる
日用雑貨の業界では、P&Gが売上高約9兆円、花王が約1兆4000億円。これに対してわがエステーは約500億円。花王の子会社よりも小さいぐらいの中堅企業だ。売上高だけを見れば吹けば飛ぶような会社だが、だからといって飛ばされてはたまらない。小さければ小さいなりに生き残る知恵を働かせなければ、私も社員もおまんまの食い上げになってしまう。
そもそも大企業と中堅企業の最も大きな違いは、トップの存在感や影響力にある。大企業であれば「社長が偉そうなことを言っても、どうせ3、4年でいなくなる」てなもので、だいたい現場のことはよく分かっていないから、「社長をだますには刃物はいらぬ、ウソの3つもついておけばいい」と考える。実際、私も日本生命で働いていた頃は、ウソばかり言っていた。
しかし中堅企業はそうはいかない。先日も工場に行き仕事を見ていたら、ものすごく理不尽な作業をやっている。「お前さ、なんでこんなおかしなやり方をしているわけ」と問い詰めたら、「20年前に鈴木さんが社長になったとき、こうしろと言ったからやり続けているんじゃないですか」と反論を喰らってしまった。
「ほんまかいな、裏取れるのか」と言葉を返したものの、内心では「あちゃちゃ、こりゃまずいな」と思い、背中には冷や汗をかいていた。それだけトップの影響力がダイレクトに現場に反映する。
トップの存在感や影響力が大きいのにはメリットもデメリットもある。
まず真面目にやったらトップ自身も会社も、ものすごくよくなる。会社即トップの経営力、個人力、人格力のようなものだから、従業員の家族構成まで調べて、「どうした、最近、元気ねえな。話してみろよ」などとつぶさに分かる。よく言えば家族経営だ。これがトップへの信頼感を強め、経営判断のスピードも上げる。
だが一方で、気を抜くとすぐにダメになる。トップのやる気がすぐに伝わるから、トップがだれると社員は、その倍のスピードでだれる。
また人事に情が絡みやすくなるのもよくない。「人を大事にする」と言えば格好よいが、やはり情に流されるケースが多くなる。「大事は理を以て決し、小事は情を以て決す」がなかなかできない。
トップの好き嫌いもはっきりと出るから嫌われた社員はたまったものじゃない。でも「どうもこいつはあかん」という時は、やはりトップが決めなくてはならない。社員は絶対に「仲間を降格させろ」などとは言ってこない。明日は我が身だからだ。だからトップが判断するしかないし、嫌なことをやるのはトップしかいない。
中堅企業では経営資源も限られているから事業をどこまで広げるか、逆に狭めるかもトップの判断にかかっている。ただ、あまり難しいことは考えない。会社は自分の目の届く範囲ぐらいにしておかないとコントロールできないからだ。ちなみに私自身が、「自分の知らないことがこの世の中にあるのが大嫌い」な性分なので、逆に「こういうことしかしない」と自分で範囲を決めている。
そうすると自ずと事業範囲もここまでだと決まる。いろいろなことをやったらくたびれるから。つまり単純明快な絞り込み。選択と集中なんて格好のよいものではない。
事業を捨てるときの判断も理論などない。面白くないこと、嫌いなこと、俺の意に沿わないと思ったら止める。「先が見えない」、「どうも怪しげだ」、「どうもこいつはインチキ臭い」とか、勘みたいなものが重要なのだ。小さいカテゴリー別展開から大きな世界展開まですべてそうだ。
そもそも未来など誰にも分からないし、教えてもらえるものでもない。だから撤退はトップにしか判断できない。だが頭のよい理屈っぽい部下は、「なんでやめるんですか、説明してください」と食い下がってくる。「理由はないんだ。夢見が悪かっただけだ」で通してしまっている。理屈のないものに屁理屈がいるか、という話なのだ。