政府は新成長戦略の目玉の一つとして、観光立国の推進を掲げている。10年後の2020年初めには、訪日外国人を2500万人、将来的には3000万人にすることを目指している。観光産業が、日本の主要産業となるためには、個々の企業、政府は何をしなければならないのか。総合リゾート事業を展開し、数々のホテル・旅館の再建に手腕を発揮する星野リゾートの星野佳路社長に、観光立国実現の道を聞いた。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 麻生祐司、客員論説委員 原英次郎)

予想以上に大きい観光産業
今後の成長も期待できる

―素朴な疑問ですが、日本の観光産業は、自動車やエレクトロニクスなどと並ぶ、主要産業になれますか?

星野佳路(ほしの よしはる)
1960年長野県軽井沢町生まれ。83年慶應義塾大学経済学部卒業、86年米国コーネル大学ホテル経営大学院にて経営学修士号を取得。91年 星野温泉(現 星野リゾート)代表取締役社長に就任。2003年国土交通省より第1回観光カリスマに選定された。
Photo by Masato Kato

 私はできると思っています。理由はいくつかありますが、第1には産業規模がそもそも大きいということです。日本の観光産業に対する需要は、直接的な需要だけで約23兆円。自動車産業(約49兆円)の半分近くある。

 にもかかわらず、なぜ主要産業になっていないのか。問題は収益力にあります。生産性が低くて、23兆円もある需要から利益を引き出す力がないのです。

 日本の製造業の生産性は世界でもトップクラスですが、サービス業全体では、米国を100とした指数で測ると60程度と、米国に比べて40%も低いと言われています。これは2004年の調査ですが、その中で観光産業は60どころか25しかありません。ただ、われわれも同じ日本人なのですから、製造業並みの生産性、収益力をつけることは可能なはずです。そうすれば、すでに23兆円もある産業だから、特に地方の経済に貢献できる産業になれるのではないでしょうか。

 もうひとつの理由は、観光産業は実は景気の変動に対して、強いということです。

 私は、バブル崩壊も今回のリーマンショックも経験しました。製造業は2~3割も需要が落ちましたが、それに対して観光産業はほとんど需要が落ちていません。産業の規模が大きくて、安定しているのです。

 加えて、インバウンド(海外から日本を訪れる)旅行客が約800万人います。23兆円のうち1.5兆円がこのインバウンドによるものです。とはいえ、1.5兆円というのは、世界の中では28位にすぎない。フランスが年間8000万人の海外旅行客を呼んでいるのに対して、日本は800万人しかいないのです。

 今、日本は国の政策として、インバウンドの旅行客を3000万人にしようとしています。訪問客は約3倍以上に、金額的には1.5兆円を5~6兆円にしようとしている。23兆円が、ひょっとすると10年後には28~29兆円になるかもしれない。つまり、今の日本でこれだけ需要が大きくて、かつこれだけ成長する可能性がある産業というのは、他にないはずだというのが、第2の視点です。