「子ども、若者をダメにした――」。そう揶揄され続けてきた“ゆとり教育”が終焉を迎える。授業時間や内容の削減で学力低下を招いたともいわれる現行の学習指導要領は改訂され、2011年4月から新学習指導要領が小学校で全面実施されるのだ(中学校では2012年から、高校は2013年の入学生から実施)。すでに社会人となっている“ゆとり世代”への批判は多いが、そもそもゆとり教育の何が問題だったのか。また、懸念されている学力低下は新学習指導要領によって改善されるのか。中央教育審議会の中心的メンバーとして今回の学習指導要領の改訂にも携わってきた白梅学園大学の無藤隆教授に、ゆとり教育の本当の問題点と今回の改訂によって「日本の教育」はどう変わるか、話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)
「勉強しなくてもなんとかなる」
“ゆとり教育”の趣旨を誤解した若者たち
――「個性を活かす教育」を目指して行われてきた、いわゆる「ゆとり教育」は学力低下などの面から多くの批判が集まってきた。そもそも根本的な問題点とは、何だったのだろうか。
ゆとり教育には主に3つの問題点があると考えている。
まず、一番大きな問題は、やはり授業時間と教育内容が削減されたことだろう。その代表といえるのが週4回から3回へと授業時間が減少した英語で、学力の落ち込みは否定できない。
ただ、そこにはいくつかの誤解があるのも事実だ。内容が削減されようとも、必ず教えている基本知識があるにもかかわらず、それを子どもたちが押さえていないことさえも“ゆとり教育の責任”にされている節がある。
例えば、第二次世界大戦で日本がアメリカに敗戦した事実を知らない子どもがいるとしよう。この歴史は現行の学習指導要領でももちろん教えていることであり、それはゆとり教育のせいにすべきではない問題のはずだ。
そもそもゆとり教育によって教育内容が削減されたとはいえ、それは1割程度に過ぎない。しかも削減された部分についても小学校の内容は中学校へ、中学校の内容は高校へと送られ、必ずどこかの課程で触れられている。ただ、高校では授業が忙しく、学力差が大きいために対応しきれないこともあり、そうした誤解が生まれた可能性はある。