8月29日の民主党の代表選で、野田佳彦財務大臣が決選投票の結果、海江田万里経済産業大臣を破り、逆転で勝利した。30日には、衆議院と参議院で総理大臣の指名選挙が行われ、野田氏が第95代の内閣総理大臣に選出された。
「ノーサイドにしましょう。もう」。代表選勝利後のあいさつでこう述べた野田氏の言葉には、確かに人の心に響くものがあったが、所詮は民主党内部に向けた言葉である。これから民主党に求められるものは、国民に対して筋の通った行動と、説明である。その点で、今回の代表選が何を残したか。二つの視点で考えてみたい。
永田町だけの内輪の選挙
政権の正統性に問題あり
一つは政権の正統性の問題である。現在の制度では、日本国民が直接に総理を選ぶことができない。それに近い機会があるとすれば、各党が代表や総裁を自党の顔として押し立て、マニフェストあるいは公約を掲げて戦う、総選挙時である。
その点でいえば、政権発足からわずか2年で、3人目の総理を出すことになった民主党政権は、安倍、福田、麻生と1年ごとに「年替わり首相」を出した自民党政権末期となんら変わらない。民主党はそれを政権のたらいまわしと批判していたはずである。しかも、今回の代表選は、告示から選挙まで、わずか2日しかなかったうえ、地方議員も党員も選挙に参加できず、選挙人は国会議員だけという内輪の選挙となった。開かれた代表選とは、とても言えない。
第二点が政策を軸に代表が選ばれたかという点である。いくつかの争点が明確になったという点では、評価できるものの、時間的制約もあり議論が深まったとは言えない。
まず、いずれの候補も大きな絵姿として、どのような国づくりを進めていくのかが明確ではなかった。大震災以前から、国内では少子高齢化が急速に進み、世界では新興国が急速に勃興して、世界のパワー・オブ・バランスが変化しつつある。こうした構造的な変化に対して、国内では経済成長と公正、公平という価値軸で、どのようにバランスを取った社会を目指すのが問われている。世界においては、勢力の変化に対応した外交戦略を確立することが求められている。