海外での安全対策のあり方が、ここ数年で大きく変わっている。背景にあるのはイスラム過激派組織などによる一般市民を狙ったテロ事件の増加だ。一方で、自然災害や感染症などの脅威も増している。日本企業は従業員の安全対策にどう取り組めばいいのか。
過去18年間で海外5公館に勤務し、ペルー大使公邸占拠事件をはじめ、ニュージーランドのクライストチャーチの地震、アルジェリアでのガスプラントの襲撃事件、フィリピンにおける大型台風通過、ネパール地震など様々な事件・事故・災害において現地で危機対応にあたった外務省領事局邦人援護官の伯耆田修氏に聞いた。
(本記事は、2月12日に「リスク対策.com」が開催した海外進出リスク対策セミナーでの講演をもとに取材したものであり、必ずしも外務省の公式見解でない場合もある)
標的になり始めた日本人
邦人をとりまく国際環境の変化
4年ぐらい前まで私どもは、海外に行く日本人に対して「テロに巻き込まれないように十分注意してください」「テロが多いのは中東・アフリカですから注意してください」「居住者は十分注意してください」ということを主に呼び掛けていたが、2013年1月に発生したアルジェリアのガスプラント襲撃事件では、日本の進出企業の日本人従業員が殺害された。
中東・アフリカに限らず、先進国でもテロ事件が多発しており、今や全世界どこにおいてもテロ事件が発生してもおかしくない。日本人も標的になってきている。
2016年2月現在、退避勧告が発出されている国は、一部地域を含めると26ヵ国・地域に上る。そのうちの6ヵ国は、全土にわたって退避を勧告している地域で、アフガニスタン・シリア・イエメン・ソマリア・リビア・中央アフリカである。中東・アフリカには多くの退避勧告や渡航中止勧告の危険情報が発出されており、非常に危険な地域もある。
アメリカの研究機関によると、現在、イスラム過激派組織「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」の戦闘員は約3万人に上り、そのうちの半数が外国人部隊であるという。内訳はチュニジア人が一番多くて3000人ぐらい、ロシア人が1700人、フランス人が1200人、イギリス人も600人ほどが戦闘員に加わっているという調査結果が出ている。このような人たちが母国に戻れば、いつ、テロを起こしてもおかしくない。つまり、中東やアフリカだけでなく、世界各国どこでもテロが起こる可能性があるということだ。
日本人が巻き込まれたテロ
ISILは、日本を標的として言及
ここ数年における海外で邦人が巻き込まれたテロ事件を振り返ると、2013年のアルジェリアの事件では10人の方が亡くなられた。2014年には0だったが、2015年はシリアで2人、チュニジアで3人の計5人が犠牲になられた。