世界中を震撼させたパリ同時多発テロ事件。報道を受けて、日本でもテロのリスクに対する不安が募っている。国際テロリズムに詳しい板橋功・公共政策調査会研究センター長が、かつてないほどテロのリスクが高まっているという日本の現状とセキュリティの課題を詳しく解説する。

パリ同時多発テロの真の脅威は
ISよりも「身内」にあった

新幹線焼身自殺事件後に、手荷物検査の実施が議論されたことがあった新幹線

 今回フランスで起きたテロ事件には、どんな真相があったのか。また、事件の報道を受けて、日本でもテロの脅威に対する不安が募っているが、今後日本人はどんなセキュリティ対策を考えればよいのだろうか。

 まず、フランス同時多発テロ事件の背景分析から。今回のテロ事件については、イスラム過激派組織「イスラム国(以下IS)を壊滅する目的で行なわれたシリアの空爆に、フランスが参加したことに対する報復だと見る向きが多い。確かにそうした要因もあるのだろうが、話はそう単純ではない。

 犯人のテロリストたちにとって、わずか30分程度の間に130人もの命を奪うことは、戦闘経験や訓練を積まないとできないことだ。また、彼らにはみなシリアへの入国経験があると報じられている。このことから、イスラム国への参加経験がある者たちが今回のテロの中心だった可能性は高い。しかし、そもそもテロ犯の大半はフランス国内で生まれ育ったイスラム系2世、3世であり、空爆の報復のためにISから送り込まれたテロリストではない。

 欧州諸国には、イスラム系移民やその子孫がたくさん暮らしており、その数はフランスだけでも470万人に及ぶ。彼らは潜在的に社会に対する不満や疎外感を感じており、時として過激化(ラディカリゼーション)することがある。今回のテロの主犯がアルジェリア系だったと報道されていることからも、フランスの植民地支配に対する歴史的な鬱屈も、根底にあったのではなかろうか。

いたばし・いさお
財団法人公共政策調査会 研究センター長。専門はテロリズム問題(国際テロ情勢、テロ対策)、危機管理。1959年生まれ。栃木県出身。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。1987年社会工学研究所入所。1992年財団法人公共政策調査会へ出向。2015年7月より現職

 そうしたなか、彼らの多くがISにシンパシーを感じ、ISが発する様々なメッセージに刺激されていたことは、おそらく確かだろう。しかし、欧米諸国の国内の過激分子はあくまで自分たちの判断で独自に動いている。背後でシリアやイラクにあるISの司令部が組織的に指令を出していたとは考えにくい。むしろこれまでは、テロに成功した過激派をISが賞賛し、追認していくという流れになっていた。

 このように、その国で生まれ育った者が過激思想に共鳴し、その国でテロを引き起こすことを「ホーム・グロウン・テロリスト」と呼んでいる。フランスには、そうした者がシリア、イラク、アフガニスタンなどでの戦闘に外国人戦闘員として参加し、帰国した者もおり、以前からその脅威が指摘されていた。フランスをはじめ、欧米諸国においては潜在的なテロ・リスクを常に抱えてきたため、今回のようなテロはいつ起きても不思議ではない状態だったと言える。