英国の国民投票は民意を正しく反映できたか

 2016年6月23日に行われたイギリスの欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票では、離脱支持票が残留支持票をわずかに上回ったため、多数決の原則に則り、イギリスのEU離脱の方針が決まった。得票率は、離脱支持が51.9%、残留支持が48.1%という僅差の結果だった。

 この結果を受けて、イギリス通貨のポンドは暴落。残留支持が多かったスコットランドでは、イギリスから独立しようとする機運が再燃するなど、イギリスは大混乱に陥っている。

 EU残留を訴えてきたキャメロン首相は国民投票の結果がでた時点で辞意を表明。7月13日にはテリーザ・メイ新首相が誕生し、今後EUとの離脱交渉に臨むことになる。イギリスのEU離脱をめぐる情勢が、今後どのように推移するのか、世界中がハラハラしながら見守っている状況だ。

 それにしても、これほどまでに深刻な結果を招く決定を、そもそも単純な多数決に委ねてしまってよかったのだろうか。しかも、今回の投票率は72.2%。離脱支持の得票率は51.9%なので、EU離脱に明示的に賛成したのは全国民の37.5%と半数に満たない。これがはたして民意を正しく反映する「決め方」といえるのだろうか。

『「決め方」の経済学』 坂井豊貴著
ダイヤモンド社 222p 1600円(税別)

 本書の著者、坂井豊貴氏は、米国ロチェスター大学で経済学Ph.D.(Doctor of Philosophy)を取得。その後横浜市立大学、横浜国立大学を経て、現在は慶応義塾大学経済学部教授を務める。メカニズムデザイン、マーケットデザイン、社会的選択理論を専攻し、人々の意思をよりよく反映させる選挙方式、物を高く売るオークション方式、人と組織をうまく結ぶマッチング方式といった制度設計の研究で、国際レベルの業績をあげている人物だ。

 坂井氏は本書で、集団の意思決定をするための民主的な方法だと考えられている多数決の限界を具体例を挙げながら客観的に示している。そして、多数決を正しく機能させる方法や、多数決以外の「ものの決め方」を、理論的、かつ解りやすく解説してくれている。