日本銀行Photo:PIXTA

2020年3月に、世界の金融市場は流動性危機に陥り、企業も金融機関も現金を確保に走った。そのままいけば金融危機の再来となるところだったが、主要国の中央銀行が大幅な流動性供給に踏み切り、市場を安定させた。日本においても、倒産や失業を抑制することができた。しかし、安定を得たものの、そのツケである悪化した財政、過剰流動性の出口戦略は見えない(日興リサーチセンター研究顧問・立正大学学長 吉川 洋、日興リサーチセンター理事長 山口廣秀、前日興リサーチセンター理事長室室長代理 杉野 聖)。

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主要国中央銀行の迅速な流動性供給が
金融市場の機能不全を回避した

 2020年春の新型コロナウイルスの感染拡大当初から、金融面においても、企業などの売り上げ急減に伴う倒産の増加、資金需要急増による資金繰りの困難化、資金調達コスト上昇といった事態が強く懸念された。

 この点は、米国も同様で、企業などのドル資金需要は大幅に増加した。これに対応するため、米銀だけでなく邦銀のドル調達ニーズも急増した。

 実際、米国企業の発行するドル建てCP(コマーシャルペーパー)金利(A2格)は、20年3月初めの1.73%から3月下旬には3.61%まで急上昇する一方、邦銀を含む銀行間のドル調達金利〈LIBOR(ロンドン銀行間金利)-OIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)スプレッドベース〉も、ほぼ同じ期間に14.5bps(0.145%)から138.0bps(1.38%)へ急激に跳ね上がった。

 このようにドルの資金需給は、短期のものを中心に、個人・中小企業向け、大企業向けいずれの段階でも極度に逼迫(ひっぱく)した。

 こうした事態を放置すれば、リーマンショック時に生じたような、金融の全般的な機能不全に陥りかねなかったが、これを回避すべくFRB(米連邦準備制度理事会)はもとより、日本銀行もドル資金供給オペを拡充するとともに、主要国の中央銀行間でのドルスワップラインの強化も決定した。

 これらの対応によって、ドル建てCPの発行金利、銀行間のドル調達金利などは安定し、おおむね1カ月後には新型コロナウイルスの感染拡大以前の水準まで低下し、特にCP発行金利(AA格)は5月頃には0.1%、A2格も6月頃には0.3%とほぼゼロ金利と言えるところまで低下した。

 このような主要国の中央銀行の迅速な対応は、企業のドル資金繰りを円滑化し、銀行間のドル調達市場の機能を維持するという意味で極めて有効な措置であった。

 米国における金融市場の落ち着きは、邦銀にとっては、単に米国ビジネスだけではなく、グローバルなビジネスの円滑な展開をも支えるものとなった。