「資本コスト」「コーポレートガバナンス改革」「ROIC」といった言葉を新聞で見ない日は少ない。伊藤レポートやコーポレートガバナンス・コード発表以来、企業には「資本コスト」を強く意識した経営が求められている。では、具体的に何をすればいいのか。どの経営指標を採用し、どのように設定のロジックを公表すれば、株主や従業員が納得してくれるのだろうか?
そこで役立つのが『企業価値向上のための経営指標大全』だ。「ニトリ驚異の『ROA15%』の源泉は『仕入原価』にあり」「M&Aを繰り返すリクルートがEBITDAを採用すると都合がいいのはなぜか?」といった生きたケーススタディを用いながら、無数の経営指標の根幹をなす主要指標10を網羅的に解説している。すでに役員向け研修教材として続々採用が決まっている。
そんな『経営指標大全』から、その一部を特別に公開する。

「売上高営業利益率50%」!キーエンスの強さは「販管費の低さ」にあったPhoto: Adobe Stock

多くを語らないキーエンスは
どの経営指標を重視しているのか

「売上高営業利益率50%」!キーエンスの強さは「販管費の低さ」にあった図表1 キーエンスの売上高営業利益率(日本基準)

 製造業や商社、小売業など広く物販業において、日本でもっとも高い売上高営業利益率を計上している企業はどこだろう。この質問の問いかけに「キーエンス」と即答できる方は決して少なくはないだろう。非物販業であるならいざ知らず、物販業において売上高営業利益率50%とは、想像できる水準をはるかに超えた高いレベルにある

 そんなキーエンスではあるが、目標とする経営指標については、「有価証券報告書」の中でいたって保守的な表現で済ませている(*1)。多くは語らないキーエンスは、言わば無言実行の超優良企業である。

客観的な経営指標
当社グループは世の中への貢献を測る客観的な経営指標として特に「売上高」、「売上総利益」、「営業利益」を注視しております。当社の事業はグローバルかつ幅広い業種・業界を対象に行っており、業績変動の要因となる生産設備、研究開発投資の他、各国の経済動向などの影響を受ける可能性があることから、合理的な業績予想及び目標を算出することは困難であると考えております。しかしながら、これらの経営指標の最大化を常に目指して事業活動に取り組んでまいります。

 直接的に売上高営業利益率を経営指標としては謳っていないものの、売上高、売上総利益、営業利益を注視する以上、必然的に売上高営業利益率はそれらから導かれる重要指標となる。また、IR情報を細かくは発信しないキーエンスにあって、ホームページ上の「経営指標」の一覧において、連結売上高営業利益率の推移を過去11年にもわたって継続的に開示していることから、同社にとって重要な経営指標の1つであると判断してよかろう図表2)。

「売上高営業利益率50%」!キーエンスの強さは「販管費の低さ」にあった図表2 キーエンスの売上高営業利益率の推移

 過去10年度の売上高は年平均11.3%、営業利益は12.3%で成長している。売上高営業利益率は、直近7年度は50%を上回っているものの、5ポイント前後でのブレは見られる。これはキーエンスの言う「グローバルかつ幅広い業種・業界を対象に行っており、業績変動の要因となる生産設備、研究開発投資の他、各国の経済動向などの影響を受ける」ことを裏付けよう。

 それにしても他の製造業からすれば、うらやましいほどに圧倒的に高い水準での、営業利益率5ポイントのブレである。顧客の業界が多岐に分散されていることや、標準品・汎用品の比率を高めるキーエンスの戦略によって、キーエンスが言うほどは業績がブレないのも同社の特徴と見ることができる。

 多くは語らないキーエンスであるが、その強みをバリューチェーンで整理すると図表3のように体系化できる。

「売上高営業利益率50%」!キーエンスの強さは「販管費の低さ」にあった図表3 キーエンスの強みを作り出すバリューチェーン

 ファクトリー・オートメーション(FA)向けのセンサ、測定器、画像システム機器、レーザマーカだけでなく、研究開発向けのマイクロスコープ、物流、小売向けのコードリーダを開発するなど、製品開発は多岐におよび、あらゆる業界に向けて販売を行っている。2021年3月期の海外売上高比率は56%と、過半数に達するグローバル企業でもある。