販管費率を押し下げる強み2
「4ヵ月分の販売量」相当の棚卸資産を保有
キーエンスの売上高総利益率を押し上げ、販管費率を押し下げるもう1つのヒントは、同社の貸借対照表(B/S)にある(図表4)。2021年3月期の売上債権回転期間は119日(約4ヵ月後の顧客からの入金)、仕入債務回転期間は38日(約1ヵ月後のサプライヤーへの支払い)と算出される。
力のある企業は顧客から資金を素早く回収する一方で、支払いはできるだけ先延ばしすることは一般的である。米アップルや米アマゾンは、正にそれを絵に描いたような運転資金のサイクルを保持する。日本でもCCC(Cash Conversion Cycle)の短期化を経営指標として掲げる製造業が増大しているように、「回収は早く、支払いはゆっくり」を追求することが、キャッシュフロー経営の王道だ。
しかし、キーエンスの顧客からすれば、キーエンスからの製品納品後4ヵ月も支払わなくて良いのはグッドニュースである。したがって、多少のコスト高は受け入れざるを得ない。同様に、キーエンスへのサプライヤーからすれば、自社の製品納品から約1ヵ月後にキーエンスは支払ってくれるのだから、多少の値下げは受け入れざるを得ないだろう。
CCCの短期化によって余ったキャッシュを国内の超低金利で運用するくらいなら、顧客とサプライヤーのサイトとして還元することで両者からの信用を勝ち取り、かつ売価の向上と原価の低減を実現できる。長期的な信頼関係は販売活動の費用、すなわち販管費の抑制にもつながるものだ。
同期の棚卸資産回転期間は129日(対売上原価)と算出される。4ヵ月を超える販売量に相当する棚卸資産を保有しているというのだから、CCCの短期化経営とは完全に真逆の姿だ。キーエンスが大量の在庫を保持することは、販売機会を逃さず顧客のニーズに即応できるだけでなく、サプライヤーの在庫負担を軽減することにも寄与している。
キーエンスも在庫の保有についてはホームページにて、下記のように述べている(*2)。
顧客の工場を止めてしまうことを起こさせない。この信頼もまた、キーエンスの売上高総利益率を押し上げ、販管費率を押し下げる原動力と見ることができよう。