「人種・民族に関する問題は根深い…」。人種差別反対デモ、ウクライナ問題などを見てそう感じた人は多いだろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の“根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも“民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)の内容から、多様性・SDGs時代の世界の常識をお伝えしていく。

“原油の供給源”アラブ世界と仕事をするときの注意点Photo: Adobe Stock

アラブ人はリモート会議が苦手かも?

 日本のビジネスパーソンがアラブ人と接する際の注意点は、大きく三つに絞られます。

 ポイントその1は、アラブ人の大半を占めるイスラム教のことを理解し、習慣を尊重すること。「断食なんて大変そう」というのは誤解であり、彼らにとっては「ハッピーラマダン!」というほどの晴れやかな宗教的行事であることは知っておきたいもの。

 最近はかなり情報が増えたので地雷を踏むような発言をする人は減りましたが、注意は必要です。

 ポイントその2は、アラブ人は非常にウェットな人間関係を好む傾向があること。欧米人と比べると、ミーティングやコンタクトの回数は非常に多く、つきあうとなると深夜も厭わず、長時間を好みます。

「ぜひ、我が家にお越しください」という招待もしばしばありますから、世界では比較的ドライとされる日本人の感覚からすると、ビジネスライクではないつきあい方です。

 アラブ人の友人に1カ月コンタクトしなかったら、「いったい、どうしたんだ?」と抗議してきたりします。同性であればハグや握手も大切にするので、リモート会議などは彼らが苦手とするところかもしれません。

 ポイントその3は、アメリカとの関係です。「中東はすべてアメリカと仲が悪い」というのは、中東をひとまとめに考えることによる危険な決めつけです。

 サウジアラビアとアメリカは良好な関係ですし、エジプトもさほど悪くはありません。アラブ人ではないイラン人についていえば、アメリカとの関係は最悪です。

 しかし、日本対イランという視点で考えれば関係は良好で、だからこそ日本は、欧米とイランをつなぐ役割を果たせるポテンシャルがあります。

 これは民族的な考えというよりも国際政治的な見方ではありますが、ビジネスパーソンであれば、頭の片隅に入れておくことをおすすめします。

 心理的な話としては、アラブ人は欧米に対して「植民地にされた。好き勝手に搾取された」というわだかまりがあると思います。

 アラブ人はオスマン帝国にも支配されましたが、オスマンは同じイスラム教であり、融和的かつ寛大な国。

 アラブ人であっても特に困ることはなかったわけです。しかし、列強の植民地支配は屈辱そのものであり、石油利権を巡っても「利用された」という恨みが今でもアラブ世界では全体的に残っています。

 このように欧米が嫌いなのに、「欧米で学ぶことがステイタス。英語やフランス語ができるほうがビジネスに有利」というアンビバレンツがあることも理解しておきましょう。

 アラブ人の上流階級には、「イギリスにずっと留学していて英語も完璧。ヨーロッパとのコネクションを利用してビジネスをしています」と優雅に微笑みながらカイロの大邸宅に住んでいるような人が存在します。

 こうした“ヨーロッパ人的”なアラブ人に対しては、夫婦単位での食事会やヨーロッパの芸術文化の話題など欧米流のつきあい方が望ましい場合もあります。