「人種・民族に関する問題は根深い…」。コロナ禍で起こった人種差別反対デモを見てそう感じた人が多かっただろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の“根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも“民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)の内容から、多様性・SDGs時代の世界の常識をお伝えしていく。

元外交官が語る、ロシアに対するウクライナ人の“意外な本音”Photo: Adobe Stock

ロシアのライバルであり旧本家でもあるウクライナ

 旧ソ連だったほとんどの国では「ロシアは大嫌い!」と意見が一致しますが、ベラルーシはロシア寄りとされてきました。一方、ウクライナは、ロシアのライバル。それどころか、「ウクライナこそロシアの本家だ」という思いがあるようです。

 ロシアの歴史の始まりともいえるキエフ大公国は、現在のウクライナに位置していました。ウラジミール大公が正教会の受け入れを決断したことで今のロシアがありますが、この際にイスラム教を受け入れていた可能性もあります。

 もしそうなっていたら共産主義も東西冷戦も生じず、まったく違う世界が生まれていたでしょう。寒冷の地ロシアに、イスラム教の「アルコール厳禁」という戒律は無理だったという説もあり、ウオッカが世界を変えたともいえます。

 ロシアの専門家がいうには、ウクライナは日本でいう奈良や京都のような存在であり、「いろいろあって国が分かれたけど、やっぱりロシア人の本拠地だ」という思いがロシアにもあります。

 ソフィア大聖堂など正教会の重要な教会もあるウクライナが、昨今、西ヨーロッパ寄りの国になっているのは、「おいおい、文化も宗教も同じ仲間なのに、何やってるんだよ!」というのがロシアの思いではないでしょうか。

 ロシア語とウクライナ語は異なりますがかなり似ていて、ウクライナにはロシア語を話せる人も多数います。

 しかし、ウクライナからすると、「自分のほうがロシアの元祖であり、ロシアよりもヨーロッパ的で洗練されている」というプライドと、「ロシアと私たちは別です」という主張があり、微妙なところです。

 さらに、ウクライナの東にはロシア人がたくさん住んでおり、ウクライナ国内にも東と西の対立構造があるというのも、ウクライナの事情を複雑にしています。

 ロシアとウクライナの間の緊張関係には、このようにさまざまな事情が絡みあっているのです。