村山 治
プロの運び屋などによる映画のようなカルロス・ゴーン前日産会長の「逃亡劇」で露呈したのは、保釈中の逃走に刑事罰の規定がないことや空港での出入国の保安検査のずさんなどの構造的な欠陥だ。

東京地検は22日、カルロス・ゴーン前日産会長を特別背任罪で追起訴した。一連の摘発で見えてきたのは、ゴーン氏がリーマンショックで被った損失を回収しようと「日産の私物化」に走ったとする検察の構図だ。

特別背任などの罪で起訴、勾留されていたゴーン元日産会長について、東京地裁が、公判前整理手続きが始まる前の段階で保釈を認める、特捜事件では異例の判断をした。批判の強い「人質司法」の解消につながる動きなのか。

法廷に舞台を移す「ゴーン事件」は検察にとって負けられない戦いだ。政官界の汚職摘発を最高の勲章とする贈収賄中心主義から経済事件摘発強化へと転換し、さらに新たな捜査手法も導入した最初の大事件だからだ。

ゴーン事件は特別背任による再々逮捕で、「市場に対する裏切り」から「会社の私物化」解明に舞台を移した。「仏政府・ルノーvs.検察・日産」の図式になり東京地検特捜部には「負けられない戦争」になった。

森友問題で検察は財務省幹部の背任や公文書改ざんの立件を見送り、それを受けて財務省が処分を発表した。「巨悪摘発」時代の捜査モデルが破綻したにもかかわらず国民の間には検察への期待が強かった。不満が残る中で真相解明の舞台は検察審査会に移る。
